今日の午前中は雪が降った。薄っすらと積もったものの午後から雨に変わり、未だに降り続いている。明日は仕事だからこのまま雨でいてくれればいいが。
それでは「うたてやな」の巻の続き。
六句目。
五月雨に預てとをるきみが駒
なを山ふかく訴状書かへ 西鶴
前句の「五月雨にきみが駒を預けて通る」の倒置に、預ける理由として山深く道が悪いからだとする。ついでに主君から預った訴状も改竄?この山は迷宮入りか。
「なを山ふかく」は『元禄俳諧集』新日本古典文学大系71の註によれば、
しをりせでなほ山深くわけ入らん
うきこと聞かぬ所ありやと
西行法師(新古今集)
を證歌としている。
古歌に典拠を取ながらも、「山ふかく」に二重の意味を持たせ「訴状書かへ」と意外な方向に展開するテクニックは、さすがあの有名な井原西鶴さんだけある。
ネットで見ると井原西鶴は本名は平山藤五で大阪の豊かな町人の家に生まれるとある。となると井原は苗字ではない。平山氏というのは鎌倉武士平山季重を祖とする家が一応あるから、勝手に名乗ってたのでなければ立派な苗字と言えよう。
七句目。
なを山ふかく訴状書かへ
世の噂いはぬ草木ぞ恥しき 万海
文書の改竄はやはり恥ずべきことで、世間では散々なことを言われているが、そんな無責任な野次馬よりも物言わぬ草木に対して恥ずかしい。
万海も大阪の人。宗因門の前川由平の門人。賀子編の『蓮実』には、西鶴、賀子、万海の三吟が収められている。
発句も、
糸あそぶころや女のまみおもし 万海
川狩や色の白きは役者らし 同
音ひくし魂祭る夜のまさなごと 同
などがある。
八句目。
世の噂いはぬ草木ぞ恥しき
親の住ゐにおなじ白雪 舟伴
自分もこうして恥ずかしい思いをして、雪が降ったみたいに白髪になるが、きっと実家に住む親も同じ思いでいるのだろう。「白雪」を比喩にではなく本物の雪と取り成すことで、逃げ句になる。
舟伴もデータベース/江戸時代俳人一覧(このサイトには常々お世話になっている)によれば大阪の人。これで連衆は一巡して、あとは出勝ちになる。
九句目。初裏に入る。
親の住ゐにおなじ白雪
餅つきに呼ぶ者どもの極りて 才麿
親の餅搗きに呼ばれる人はいつも決まっている。いつも同じメンバーで同じ白雪の中、正月準備の餅搗きをする。
十句目。
餅つきに呼ぶ者どもの極りて
常は橋なき野はづれの川 鬼貫
「極まる」には困窮するという意味もある。野の外れにある普段は人の通らないところにある川は橋がないので、餅搗きに急に大勢人が集まってきても難儀する。
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