「蓮の実に」の巻の続き。
四句目
名月の朝日に影の替り来て
まだ夢ながら碁石撰分(えりわく) 賀子
一見唐突に囲碁が出てくるようだが、前句の名月と朝日を碁石の黒石と白石に見立てての展開。月は金屏風などでは銀で塗るため、それが黒ずんで見える。
名月が沈み朝日が昇る頃、徹夜で打っていた碁の勝負も黒が優勢だったが次第に白の優勢に変わり、眠気も差してきて夢ともうつつともつかずに次ぎの手を案じる。「撰分(えりわく)」は碁笥をまさぐる仕草のことか。
五句目
まだ夢ながら碁石撰分
船寄て延しにあがる磯の浜 賀子
これも囲碁用語による縁語での展開で、「寄せ」は中盤にほぼ確定した地合いの隙間を細かく詰めていって、一目でも多く取ろうというせめぎあい。「延び」は自分の石をの横にさらに石を打って長くすることをいう。「浜」は取った相手の石のこと。「上げ浜」とも言うから「上がる‥浜」で縁語になる。
碁を案じていると夢の中では船が出てきて、寄せの勝負で自分の石を伸ばし、地合いを確定させればその中の石は上げ浜となる。
六句目
船寄て延しにあがる磯の浜
白鷴人をおぢぬ粧ひ 西鶴
『元禄俳諧集 新日本古典文学大系71』(一九九四、岩波書店)のテキストでは「鳥」の上に「幹」の乗っかった文字で記されていたが、フォントが見つからなかったので註釈の所にあった「鷴」の字にした。
「白鷴」は雉の一種で、中国南西部に生息する。
この句は李白の「秋浦歌」による本説付けではないかと思う。「秋浦歌」は十七首からなり、一般に知られているのは其十五の「白髪三千丈」だが、其十六に「白鷴」の登場する歌がある。
秋浦田舎翁 采魚水中宿
妻子張白鷴 結罝映深竹
秋の浦の田舎の老人、
魚を獲って船で暮らす。
妻子は白鷴に網を張り、
結んだ罠は深い竹薮に映る。
漁夫が船を寄せて磯の浜で伸びをすると、そこには白鷴が人を恐れることもなく佇んでいる。多分竹薮に張った罠が目立ちすぎたのだろう。そこにはかかってなかった。
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