今日は七草粥の日だが、旧暦ではまだ師走の十三日。今年も俳諧を読んでいくので、まずは師走の俳諧を探してみた。
そういうわけで貞享元年臘月十九日、芭蕉が『野ざらし紀行』の旅の途中、熱田で興行された、
海くれて鴨の声ほのかに白し 芭蕉
を発句とする四吟歌仙を読んでいこうと思う。臘月は師走の異名。
この発句には前書きがある。
尾張の国あつたにまかりける比、人々師走の
海みんとて船さしけるに
海くれて鴨の声ほのかに白し 芭蕉
船上での興行なのか、それとも舟遊びのあとでの興行なのかは定かでない。十九日だから、夕暮れに船を浮かべた時はまだ月はなく、かなり遅くなってから月が昇るまでは真っ暗になる。寝待月ともいう。
発句はその海が暮れて紺色の空に星が瞬く頃、辺りはすっかり暗くなり、波の音に混じって鴨の声がかすかに、それでいてはっきりと聞こえてくる瞬間を捉えている。「白し」は「しるし」ではっきりとという意味がある。
これに桐葉が脇を付ける。
海くれて鴨の声ほのかに白し
串に鯨をあぶる盃 桐葉
桐葉は熱田の名家で屋敷の間口が七十五間あったという。おそらく今回の舟遊びと興行のスポンサーだったのだろう。芭蕉を迎えるホストということで脇を詠んでいる。
海岸で火を焚いて串刺しにした鯨肉をあぶったものを肴に酒を飲むとは、何とも豪快だ。
第三は東藤で、やはり熱田の人のようだ。『熱田皺筥(しわばこ)物語』を編纂し、この歌仙も収められている。
串に鯨をあぶる盃
二百年吾此やまに斧取て 東藤
前句の鯨をあぶって酒を飲む豪快な雰囲気から、二百年山で樵をやっている仙人のこととする。
連歌でも「山がつ」という言葉は隠遁者の意味でも用いられる。湯山三吟の十四句目に、
何をかは苔のたもとにうらみまし
すめば山がつ人もたづぬな 宗長
の句がある。
四句目は工山。工山はよくわからないが、やはり熱田の人か。
二百年吾此やまに斧取て
樫のたねまく秋はきにけり 工山
前句を山神様か何かにしたか、秋に樫の団栗を落とし、種を蒔く。
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