2019年12月12日木曜日

 今日は旧暦の十一月十六日で満月だ。朝も夜も月が見えた。
 山地の紅葉は終りかけて、今は街中であざやかな紅葉の赤を目にする。
 それでは「枇杷五吟」の続き。

 九句目。

   あだなる恋にやとふ物書
 埒明ぬ神に歩みを運びかけ    魚素

 「埒」は馬場の策のこと。加茂の競馬の時になかなか柵が開かない(競技が始まらない)というところから「埒があかぬ」という言葉ができたという説もある。
 「歩(あゆみ)を運ぶ」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、

 「① 出かける。わざわざ行く。また、歩行する。
 ※今昔(1120頃か)四「年老い身羸(つか)れて、歩を運ぶと云へども、其の道堪難(たへがた)し」
 ※滑稽本・風来六部集(1780)里のをだ巻評「木場の岡釣には太公望も歩(アユミ)をはこび、三十三間堂の大矢数には養由基も汗を流す」
  ② 神仏などに参詣する。参拝におもむく。
 ※平家(13C前)一〇「我朝の貴賤上下歩(アユミ)をはこび、〈略〉利生にあづからずといふ事なし」

とあり、この場合はそのまま②の意味でいいのだろう。
 「埒明ぬ」は終止形で一回切れて、埒が明かないので神に祈りに行こうとしたが、その前に恋文を代筆してもらう。
 十句目。

   埒明ぬ神に歩みを運びかけ
 池のすぽんの甲のはげたり    北枝

 「すぽん」は鼈(すっぽん)のこと。亀だけど甲羅は柔らかい。英語ではsoft-shelled turtleというらしい。「甲(こう)のはげたり」は脱皮のことか。
 神社の池に亀がいることはよくあるが、昔はスッポンもいたのか。
 十一句目。

   池のすぽんの甲のはげたり
 橋普請木の切レさがす役に付   牧童

 橋普請はコトバンクの「世界大百科事典内の橋普請の言及」に、

 「とくに堤川除(かわよけ)・用水・道橋等の普請において,周辺村落が費用を出して行った工事を自普請というのに対し,領主側が費用を負担して行った工事をいう。幕領における河川・用水等の管理は元来代官の任務で,1687年(貞享4)の勘定組頭・代官への布達に,灌漑用水普請は高100石に人足50人まで百姓自普請で行うこと,この人数を超えるときには人足扶持を支給すること,堤川除普請は人数の多少にかかわらず扶持米を支給すること,また金銀入用はいずれの普請についても支給すること,竹木・カヤ・わら縄等は支配所内にあればこれを与え,ない所は代金を支給すること等と規定され,橋普請は街道筋の場合,長短に限らず幕府が出費し,在郷の場合は原則として所役とすることとされた。こののち増大した御普請費用は幕府の財政状態の悪化により問題化し,1713年(正徳3)には町人等の請負工事を禁じて,なるべく百姓自普請で行うことを令した。」

とある。
 「竹木・カヤ・わら縄等は支配所内にあればこれを与え」とあるところから、代官様が木切れを探すこともあったのか。前句の「甲のはげたり」が何となく代官様の禿げ頭を連想させる。
 十二句目。

   橋普請木の切レさがす役に付
 昼寝せぬ日のくせのむか腹    乙州

 普請の時の代官様は今で言えば現場監督のようなものなのか。結構雑務が多くて昼休みも満足が取れない。それでいらいらして職人に当り散らしたりする。困ったものだ。
 十三句目。

   昼寝せぬ日のくせのむか腹
 むら薄おほふ隣の味噌くさき   小春

 昔は各家庭で味噌を作っていて、「手前味噌」なんて言葉もあるということはよく言われるが、発酵食品なだけに加減を間違えると雑菌が混じって悪臭を放つ。
 この場合の薄に覆われた隣人は物事に頓着しない世捨て人で、いわゆる草庵だったのかもしれない。だとすると金山寺味噌の可能性もある。
 十四句目。

   むら薄おほふ隣の味噌くさき
 無欲にまつる精霊の棚      魚素

 精霊棚はお盆の祭壇。昔は屋外に置かれていた。お供えは殺生を嫌い野菜や果物を供える。味噌漬けを供えることもあったのか。

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