今日も夕方雨が降った。時雨というには暖かく、遠くでは稲妻が光っていた。秋なのか冬なのかよくわからない。
異常気象というと、一体何が正常なのかという問題はあるが、やはり温暖化の影響はあるのか。
そういえばトゥンベリさんに向きになる大人が多い。それこそ大人気ないというかガキの喧嘩だ。
確かに子供なのは事実だが、まあこれから地道に勉強を積み重ねて、大人になった時に立派な活動家に成長して欲しいものだ。
情熱に任せて真っ直ぐ進んでいけるのは若さの特権だが、それを利用しようとする悪い大人達もたくさんいるのは現実だ。使い捨てにされ、最後は生贄になんてことにならなければいいが。
西洋の文化の根底には一人を生贄に奉げてでも世界を救うという発想が根強いのだろう。イエス・キリストがまさにそれだし。
「天気の子」はそれを否定しているし、日本のアニメでは犠牲は避けられないという場面でいかにそれを回避するかというところで盛り上げるものが多い。「シンゴジラ」もたった一人のおばあさんのために攻撃をやめた。そういうわけで日本からトゥンベリさんのようの人が出ることはないのではないかと思う。
それはまあともかくとして「枇杷五吟」の続き。
四句目。
道草の旅の牝馬追かけて
足の灸のいはひかへりし 魚素
灸は「やいと」と読む。
「いはひかへりし」はわかりにくい。『元禄俳諧集』(新日本古典文学大系71、一九九四、岩波書店)の大内初夫注では「足の灸治の祝いに出掛けていた人が帰って来たの意か。」とある。
「いはふ」は自動詞だと今日の祝うと同じような意味だが、他動詞の「斎(いは)ふ」だと身を清める、忌み慎む、大切に守る、という意味になる。「かへる」には今でも「静まり返る」と言うように、強調の意味がある。
おそらく前句の旅の場面から「足三里の灸」を付けたのではないかと思う。足三里は膝下にあるツボだが、この言葉は『奥の細道』の冒頭にも、
「春立る霞の空に白川の関こえんと、そゞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて取もの手につかず、もゝ引の破れをつゞり笠の緒付かえて、三里に灸すゆるより、松嶋の月先心にかゝりて‥‥」
とある。
旅でついついはしゃいで牝馬を追いかけたりしたから足を痛めて、足に灸をして身を慎みことになった、ということではないかと思う。
五句目。
足の灸のいはひかへりし
さかやきの湯の涌かぬる夕月夜 北枝
「さかやき」は「月代」の字を当てる。『去来抄』「修行教」には風国の句(実際は蘭国の句)として、
名月に皆月代を剃にけり
の句を廓内(くるわのうち)の句としている。つまり誰でも思いつきそうな、ということか。
元禄の頃は額を剃り上げるあの月代(さかやき)が広く定着した時代で、月代という字を当てるから、月に月代がてかてか光ってなんてオヤジギャグのような句は誰でも思いつくようなものだ、ということだったのだろう。
これに対し去来は、
名月に皆剃立て駒迎へ
と直したという。月代の語を句の裏に隠し、「駒迎へ」という旧暦八月に東国から朝廷へと献上される馬を役人が逢坂の関に迎えに行く儀式を、別に付けている。名月に駒迎えなら廓外になるというわけだ。
北枝のこの句も、さかやきを剃るための湯のなかなか涌かないという、月から直接連想できないことを加えることで、月にてかる月代の月並さを免れている。
前句の足の灸で身動き取れないことから、月代を剃る湯もうまく沸かせない、と付ける。昔は湯を沸かすにも薪を運んでくべたり、それなりに動かなくてはならなかった。今みたいな給湯器はない。
六句目。
さかやきの湯の涌かぬる夕月夜
髭籠の柿を見せてとりをく 牧童
「髭籠(ひげこ)」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、
「〘名〙 細く割った竹や針金で編んで、編み残した端をひげのように延ばしてあるかご。端午の幟(のぼり)の頭につけたり、贈り物などを入れるのに用いた。どじょうかご。ひげかご。」
とある。
月夜の訪問客が髭籠に柿を入れて持ってきたのだろう。月代の湯がなかなか涌かず、なかなか出てこない主人にその柿を一応見せるだけ見せて置いて帰る。
初裏。
七句目。
髭籠の柿を見せてとりをく
陣小屋の秋の余波をいさめかね 乙州
「陣小屋」はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典の解説」に、
「〘名〙 軍兵の駐屯する小屋。小屋がけの陣屋。」
とある。
「いさむ」には励ますという意味もある。陣小屋の兵士達が暮秋を惜しみ悲しむのを励ますこともできずに、髭籠の柿を見せるだけで置いていくとなるわけだが、「秋の余波(なごり)」は比喩で、負け戦で犠牲者が出たことを言っているとも思える。
八句目。
陣小屋の秋の余波をいさめかね
あだなる恋にやとふ物書 小春
秋を失恋の秋とし、それでも思い切れずに代筆する人を雇って恋文を書かせる。前句の「秋の余波をいさめかね」を暮秋の悲しみを禁じえずという意味に取り成す。
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