今日は暖かかった。夕方から雨になりスーパームーンは見えない。
では「此梅に」の巻の続き。三の懐紙に入る。
三表。
五十一句目。
此山一つ隠居料にと
富士の嶽いただく雪をそりこぼし 信章
「そりこぼす」はコトバンクの「デジタル大辞泉の解説」に「髪の毛をそり落とす」とあり、「大辞林 第三版の解説」には「『そりこぼつ』に同じ。」とある。富士山も隠居するので隠居料として白髪のような雪をそり落す。
富士山の擬人化だが、この趣向は、後の『奥の細道』の、
剃捨て黒髪山に衣更 曾良
に通じるものがある。
五十二句目。
富士の嶽いただく雪をそりこぼし
人穴ふかきはや桶の底 桃青
「人穴」はウィキペディアに「人穴(ひとあな)は静岡県富士宮市にある富士山の噴火でできた溶岩洞穴である。」とある。
「はや桶」はコトバンクの「デジタル大辞泉の解説」に、「粗末な棺桶。死者のあったとき、間に合わせに作るところからいう。」とある。
昔の葬式では、死者は仏道に入るものとして髪を剃って納棺した。富士山も雪を剃りこぼして、富士宮の人穴を仮桶とする。
五十三句目。
人穴ふかきはや桶の底
蝙蝠やみ角の紙の散まよふ 信章
「蝙蝠のみ角の紙の散まよふや」の倒置。コウモリの耳が尖っていて三角形に見えるのを、死者の額の三角形の天冠に見立て、たくさん飛び交うコウモリの姿に、天冠が散り乱れているようだとする。
五十四句目。
蝙蝠やみ角の紙の散まよふ
山椒つぶや胡椒なるらん 桃青
コトバンクの「世界大百科事典内のサンショウ(山椒)の言及」に、
「江戸時代にはコウモリがサンショウや酢を好むものとされた。《本朝食鑑》《和漢三才図会》などもサンショウを好むといっており,江戸の子どもたちは夏の夕方,〈こうもりこうもり山椒くりょ,柳の下で酢をのましょ〉と歌ってコウモリを呼んだ。」
とある。
『校本芭蕉全集 第三巻』(小宮豐隆監修、一九六三、角川書店)の注には、「胡椒は三角形の小さな紙袋に入れる」とある。江戸前期にはうどんにかけて食べたという。江戸後期には今のように唐辛子をかけるようになった。
コウモリは散り乱れる袋を見て、山椒なのかとおもったら胡椒だった。
五十五句目。
山椒つぶや胡椒なるらん
小枕やころころぶしは引たふしは 信章
「小枕」はコトバンクの「デジタル大辞泉の解説」に、
「1 木枕の上にくくりつけて使う、もみ殻やそば殻を入れた細長い円筒形の袋。
2 女性が日本髪を結うとき、まげを高くし、髻(もとどり)を締めやすいようにかもじの中に根として入れるもの。紙や木で作る。
3 日蓮宗で、祖師日蓮の御命講に供える丸く細長い餅(もち)。小枕餅。」
とある。この場合は2か。
「ころころぶしは引たふしは」は謎めいた言葉だが、ころころ転んだり引き倒されたり、ということか。
髷を結う時に小枕を転がしたり引き倒したりして、それが山椒や胡椒の粒のようだということか。よくわからない。
五十六句目。
小枕やころころぶしは引たふしは
台所より下女のよびごゑ 桃青
小枕を転がして髪を結っていると、台所から下女の呼び声がする。これが恋呼び出しになる。
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