今日は雨は止んだが一日曇り、やはり眠い。
日本代表はカザンでベースキャンプ。いいなあ、タタールスタン共和国。
Aq bure,Grai,Alkonost,Ruyan,Baradj,行ってみたいな。
ではようやく『嵯峨日記』の続き。
「廿三日
手をうてば木魂に明る夏の月
竹(の子)や稚時の絵のすさみ
麦の穂や泪に染て啼雲雀
一日一日麦あからみて啼(雲雀)
能なしの眠たし我をぎやうぎやうし
題落柿舎 凡兆
豆植うる畑も木部屋も名所かな
暮に及て去来京より来ル。
膳所昌房ヨリ消息。
大津尚白より消息有。
凡兆来ル。堅田本福寺訪テ其(夜)泊。
凡兆京に帰ル。」
手をうてば木魂に明る夏の月 芭蕉
この句は夏の夜がいかに短いかをかなりオーバーに喩えたもの。手をうってその木魂が帰ってくる一瞬の間に夜が明けてしまったようだ、とさすがにそこまで短くないだろう、と聞く人に突っ込ませながら、「明る」を月の明るさにも掛けて夏の月で結ぶ。
夏の夜や木魂に明くる下駄の音 芭蕉
が初案だったようだ。これも何の下駄の音なのかはよくわからない。何か音の出る小道具が欲しかったのだろう。この句は草稿で抹消されている。
昨日の暮れに去来がやってきて、江戸からの便りを持ってきて、そこから色々話し込んだのだろう。あっという間に朝になり、去来は帰って行く。その時の下駄の音かもしれない。
去来が来て嬉しくて手をうって、その木魂が帰ってくるか帰ってこないかのうちに朝が来てしまったようだという、楽しい時のあっという間に過ぎることをやや大袈裟に表現したのかもしれない。
手をはなつ中におちけり朧月 去来
は後に去来の読む句で『去来抄』にあるが、朧月だと春の月で、何でそんなに早く月が沈むのかわかりにくいが、魯町との別れを惜しんで、明け方見送る時になかなか手を放すことができないことを、手を放せないうちに月が沈んでしまったとしたもの。
竹の子や稚時の絵のすさみ 芭蕉
単に芭蕉が個人的に幼い時に竹の子の絵を書いたというだけなら、そんな面白い句でもない。多分あるあるネタとして、字の練習の合い間にこっそりと竹の子の絵を描いた記憶が誰しもあるのではないか、という句ではないかと思う。
多分上から下に筆を下ろし、下が太い三角形を重ねてゆくというものだと思う。竹の子と、すくすく育ってゆく子供の姿とが重なって清々しい。
麦の穂や泪に染て啼雲雀 芭蕉
嵯峨野のあたりにも麦畑があったのだろう。夕日に染まる麦畑は黄金色に輝き美しい。夕暮れの空に鳴く雲雀の声が聞こえてくれば、あの雲雀の泪に染まったかのようだ。
一日一日麦あからみて啼雲雀 芭蕉
前句に被っているので、これは初案が抹消されずに残ったものかもしれない。
能なしの眠たし我をぎやうぎやうし 芭蕉
なかなかラッパーのように韻を踏んだ句で、リズムがいい。
ぎゃうぎゃうしは曲亭馬琴編の『増補俳諧歳時記栞草(上)』(二〇〇〇、岩波文庫)の夏の所に、
「剖葦鳥 蘆原雀(よしはらすずめ)、蘆鶯(よしうぐひす)、葭剖(よしきり)[和漢三才図会]蘆虎(兼名苑)、蘆原雀、葭剖、蘆鶯(以上俗称)按ずるに、状(かたち)、倭の鶯に似て、大さ雀の如し。青灰の斑色。長き尾、田沢、芦葦の中に在て、好んで葦中の虫を食ふ。其鳴声、喧(かまびすし)く亮(さやか)也、云々。故に此名あり。」
とある。ぎやうぎやうしはヨシキリのことで、芦の中でギャギャギャギャッとかしましく泣くところからギョウギョウシと呼ばれていた。形容詞の「仰仰し」と関係があるのかどうかはわからないが、似た言葉は意味も吊られてしまうことがある。
「能なし」は夜更かしして一日だらだら過ごす自分を自虐的にそう言ったのか、寝てばかりいる自分を起すかのようにヨシキリがギャーギャー騒いでる。「眠たし」は終止形なので、ここに句切れがあり、「我をぎゃうぎゃうし(が起そうとする、眠らせてくれない)」と続く。
題落柿舎 凡兆
豆植うる畑も木部屋も名所かな
このあとに「凡兆来ル。堅田本福寺訪テ其(夜)泊。」とあるから、その時に持ってきた句だろう。堅田本福寺は今の琵琶湖大橋の西側にある。この程度の距離は一日で行き来できたのだろう。
芭蕉の「汁も膾もさくら哉」の句に似てなくもない。花の下では汁も膾も特別なものになる。それと同じように嵯峨の落柿舎では豆畑も薪を置く木部屋も名所のようだ。ただ、これは嵯峨野という名所にあるからというのではなく、芭蕉さんがいるからという意味だろう。もし現在も豆畑と薪小屋が残っていたら、間違いなく観光名所だ。
凡兆は『去来抄』で、
桐の木の風にかまハぬ落葉かな 凡兆
の句が芭蕉の、
樫の木の花にかまわぬ姿かな 芭蕉
の句に似ていることが指摘されているが、言葉のつながり具合が似ているだけで意味はまったく違うので等類ではないと判定されている。
暮れには凡兆だけでなく、去来も来る。また賑やかな夜になりそうだ。
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