2017年6月13日火曜日

 今日は久しぶりに梅雨らしい雨が降った。
 『続猿蓑』の五月雨の句は三句で、残りの一句はこれだ。

 五月雨や踵(きびす)よごれぬ磯づたひ 沾圃

 「磯づたひ」は海岸沿いに行くことを言い、旅体の句と言えよう。
 芭蕉の「温泉ノ頌」という俳文にも、「北海の磯づたひして、加州やまなかの涌湯に浴す」とあり、「あかあかと」の句の真跡懐紙写しにも、「北海の磯づたひ、まさごはこがれて火のごとく」の文がある。実際に海辺を歩くというよりは、海岸線に沿って旅するという用例だ。
 この句の「や」も倒置による係助詞的な用法で、「五月雨に踵よごれぬ磯づたひや」の倒置であろう。
 海辺の道だから砂地なので道がぬからず、五月雨の季節でも踵が汚れないというのが言葉通りの意味だが、暗にマイナーイメージで、五月雨の季節は道がぬかるんで旅をするのに難儀する、という意味を込めているのであろう。

 そのほか、目についた五月雨の句。
 まず等躬撰の『伊達衣』(元禄十二年)から、

 五月雨はどこへ行やら和田津海  心水

 この句は、

 木枯しの果てはありけり海の音  言水

に似ている。同巣(同竃)といってもいいか。作者名も似ている。言水の句のほうは元禄三年の『新撰都曲』だから、言水の方が先と思われる。

   盤子が餞別
 それほどの色黒むまじ五月雨   風仙

 五月雨の季節で日が射さないからそれほど日焼けもしないだろう、という意味だが、

 早苗にも我色黒き日数かな    芭蕉

の句が『泊舟集』(元禄十一年)にあるので、影響があったかもしれない。

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