今日も夏らしい晴れた暑い一日だった。
さて、そろそろまた俳諧を読んでみようと思うが、今回はちょっと変則的な歌仙を読んでみようと思う。元禄五年夏の芭蕉と素堂との両吟だが、俳諧と漢詩の両吟になっている。
先ずはその発句。
納涼の折々いひ捨たる和漢
月の前にしてみたしむ
破風口に日影やよはる夕涼 芭蕉
「破風(はふ)」は、ウィキペディアには、
「破風(はふ)は、東アジアに広く分布する屋根の妻側の造形のことである。切妻造や入母屋造の屋根の妻側には必然的にあり、妻壁や破風板(はふいた)など妻飾りを含む。」
とある。
切り妻屋根は二方向に屋根の傾斜があり、横から見ると屋根のない三角形の壁のスペースができる。ここが破風になる。
入母屋屋根の場合、この三角形のスペースの下に手前へ向けて屋根がある。大きなお寺や城などは、ここに様々な装飾が施されている。
この他、唐破風は中央が丸くドーム状になり、両端がその反対の曲線を持つ切妻で、お寺や銭湯などによくある。駒形破風はラヴクラフトの小説に登場するが、昔の日本にはあまり見ない。
「破風口(はふぐち)」というのは、多分入母屋破風の区切られた三角のスペースのことと思われる。昼間は太陽がほぼ真上に合って、屋根の陰がくっきりとつくが、夕暮れになると横から日が当たるために陰がなくなる。夕暮れの弱々しい日に照らされた破風口に、涼しさが感じられる。
この句には露川編『流川集』に、
唐破風の入日や薄き夕涼 芭蕉
の形もある。こちらの方が推敲し直した形か。
破風口だと普通の民家からお寺や城まで幅広いが、唐破風だと大体お寺に限定される。それに「入日や薄き」と和らいだわかりやすい表現になっている。
さて、この歌仙の一番の特徴は脇が七七ではなく五言の漢詩の詩句になっていることで、以降、芭蕉は普通の俳諧の体で詠み、素堂が五言の詩句を付けるという変則的な両吟となる。
その脇句。
破風口に日影やよはる夕涼
煮茶蠅避烟 素堂
書き下し文にすると「茶を煮れば蠅烟(けぶり)を避く」となる。これを、
破風口に日影やよはる夕涼
茶を煮れば蠅烟(けぶり)を避く 素堂
としてもいい。
茶を煮るは抹茶ではなく、当時広まりつつあった煎茶の原型ともいえる唐茶のことであろう。隠元禅師の淹茶法がお寺を中心に広まったとすれば、破風口はやはりお寺の装飾の施された破風口で、唐破風としてもそれほど意味は変わらないことになる。
煙を蠅が避けるというところに、漢詩句とはいえ俳諧らしさがある。
第三も五言で素堂が付ける。
煮茶蠅避烟
合歡醒馬上 素堂
書き下し文にすれば、
茶を煮れば蠅烟を避く
合歡(がふくわん)馬上に醒む 素堂
となる。
「合歡」はwebloi辞書の「三省堂 大辞林」には、
ごうかん がふくわん 【合歓】
( 名 ) スル
①喜びをともにすること。
②男女が共寝すること。
③「合歓木(ごうかんぼく)」の略。
ねぶ 【〈合歓〉】
ネムノキの別名。 「我妹子(わぎもこ)が形見の-は花のみに咲きてけだしく実にならじかも/万葉集 1463」
とある。
漢詩句といっても俳諧なので、ねむの木を「眠る」に掛けて、馬上に居眠りして目覚める、合歓の花の下で、となる。茶の烟と馬上に醒るは、
馬に寝て残夢月遠し茶のけぶり 芭蕉
の埋句。
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