2018年7月5日木曜日

 台風のせいか昨日から風が強く、時折大粒の雨が降る。気温も下がり、風の音は秋風感半端ない。まだ旧暦五月だというのに。
 日本代表も大勢の歓声に迎えられて、無事に帰ってきた。この国には卵を投げる習慣もないし、ミスをした選手も殺されたり家を焼かれたるする心配はない。
 ネット上では東国原元宮崎県知事の句がパクリではないかと話題になっていた。元知事とはいえ、以前はそのまんま東という名前で大森うたえもんとツーツーレロレロという漫才コンビを組んでいて、たけし軍団にも入っていた芸人だったが、知事になってからは偉くなってしまったか、東国原英夫の名前でテレビに出ている。
 テレビの方はよくわからないが、番組で披露される句というのがどこまで本人のものなのかはよくわからない。バラエティー番組にヤラセは付き物だからだ。
 まあ、その句というのが、

 梅雨明けや指名手配の顔に×  英夫

で、それが去年の六月に宮崎日日新聞の文芸欄に掲載された、

 梅雨寒や指名手配の顔に×  ?

 作者名は新聞に載ったときにはあったはずだから「詠み人知らず」ではなく、調べればわかるのだが、今回のネット上のニュースでは名前は出てなかった。
 今の日本ではローカルな新聞でも投句欄はあるし、そのほかに俳句誌や有象無象の同人誌を含めれば、毎月何万もの句が量産され、残念ながらその全部が作るそばからほとんど記憶されることもなく、忘れ去られ消えて行く。
 「プレバト!!」という番組で紹介されたからといっても、ほとんどの視聴者はCMのあとにはもう忘れているのではないかと思う。だから見つけてきた人もよく見つけたなと思う。
 実際どちらの句もそんなに印象的な句ではない。「指名手配の顔に×」は交番とかに張ってある手配書の写真が、犯人が捕まると×印で抹消されることで、日本人としては見慣れた光景で、そこに何の驚きもない。あるあるネタにするには当たり前すぎる。
 もちろん、事件の関係者であれば、まったく違ったふうに映るかもしれない。被害者と親しかったり、あるいは犯人を追っている刑事だったりしたら、嗚呼あの犯人ついに捕まったかという感慨を起すかもしれない。
 ただ、ここでは「梅雨の駅」という題詠だから、そういう特殊事情は絡まない。むしろ、

   梅雨の駅
 梅雨明けや指名手配の顔に×  英夫

とした方がいいのだろう。「梅雨の駅」というタイトルでいきなり「梅雨明け」は変だが、そこは置いておいて、まあ、この句は駅の風景として読めということだ。これが、

   何某の捕まりて
 梅雨明けや指名手配の顔に×

なら、憎き犯人もついに逮捕されて目出度し目出度し、気分は梅雨明けだ、という句になる。
 とにかく、「プレバト!!」の句も、オリジナルの方の句も、これと言った手柄のある句ではない。だから、「梅雨寒」を「梅雨明け」に変えてもあまり印象は変わらない。
 この句を生かすのであれば、先のように「何某の捕まりて」という前書きをつけるというのが一つの手だろう。
 あと「指名手配の顔に×」の下七五を生かす上五が何かあるだろうか。『去来抄』でも下七五ができていて、上五を何にすればいいのかという話題がいくつかあって、その中の一つで、「雪つむ上のよるの雨」の冠(上五)を何にするか凡兆が悩んでいたとき、芭蕉が「下京や」という答を出し、「若しまさる物あらバ我二度俳諧をいふべからず」、つまりもっといい冠があるというなら俺はもう俳諧をやめる、とまで言ったという。
 そのほか、同じ凡兆が「恋すてふおもへバとしの敵哉」という句を詠んだとき去来に季語がないことを指摘され、信徳が、「恋桜」賭したらどうかと提案したのだが、そのあと芭蕉が「大歳を」としたという。
 芭蕉も推敲の途中で上五を入れ替えた例はたくさんある。古池の句も最初は「山吹や」だったし、「山路きて何やらゆかし菫草」も最初は「何となく」だった。
 だとすると、「指名手配の顔に×」に合う上五が何かあるだろうか。筆者も非才なので芭蕉のようにはいかないが、

 黴の香や指名手配の顔に×

なんてのはどうだろうか。いかにも事件が風化しているような感じがしないか。

 秋深き指名手配の顔に×

これはただ「隣は何をする人ぞ」のイメージ。
 この下七五は時間の経過と忘却がテーマのように思えたからこうなったが、別のテーマならまた別の可能性があるだろう。いろいろ考えて遊んでみるのもいいと思う。
 なお、「プレバト!!」の句に、

 田植終え北の大地も日ざし待つ  淳一

の句があって、これはこのままで何の問題もない。
 この「も」は「力も」(強調の「も」)であって、並列の「も」ではない。これをわざわざ「田植終える北の大地が待つ太陽」なんかにすると、リズムも悪くなるし、完全に元の句を殺している。まあ夏井先生もあくまで台本に従っているのかもしれないけど。テレビはいろいろ大人の事情が絡むからそこのところはわからない。

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