2018年7月16日月曜日

 鈴呂屋書庫の方に「詩あきんど」の巻、「日の春を」の巻、「此道や」の巻をアップした。それにかなり前に書いた謝霊運の詩もアップした。
 洒堂の名前を大分前から誤って酒堂と書いていたのに気づいた。恥ずかしい。お酒ではなく洒落の「洒」で棒が一本少ない。
 それでは「破風口に」の巻の続き。

二表
十九句目

   韻使五車塡
 花月丈山閙        素堂

 書き下し文だと、

   韻は五車をして塡(いしずえ)とす
 花月丈山閙(さはが)し

となる。
 そういえば初裏で月も花も出てなかった。本当は十七句目あたりにあればいいこの句が十九句目に出ている。変則的な歌仙だけに、忘れてたのか。
 丈山はウィキペディアには、

 「石川 丈山(いしかわ じょうざん、天正11年(1583年) - 寛文12年5月23日(1672年6月18日))は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけての武将、文人。もとは武士で大坂の陣後、牢人。一時、浅野家に仕官するが致仕して京都郊外に隠棲して丈山と号した。
 江戸初期における漢詩の代表的人物で、儒学・書道・茶道・庭園設計にも精通していた。幕末の『煎茶綺言』には、「煎茶家系譜」の初代に丈山の名が記載されており、煎茶の祖ともいわれる。」

とある。気になるのは「煎茶の祖」と言われていることだが、隠元禅師の来日が一六五四年で、寛文元年(一六六一)宇治に黄檗山万福寺を開いたから、その頃に交流があったのかもしれない。
 丈山の代表作というと「富士山」のようで花月の詩はよくわからない。ただ没後も詩仙堂は有名だったのか、花の頃や月の頃は人が集まって騒がしかったのかもしれない。それもこれも五車の書物を学んだことが礎となっている。

二十句目

   花月丈山閙
 篠を杖つく老の鶯     芭蕉

 老の鶯というと、『炭俵』に、

 鶯や竹の子藪に老いを鳴く 芭蕉

の句がある。
 去年の六月十二日の日記に書いたが、各務支考の『十論為弁抄』(享保十年刊)にこうある。

 「ある時、故翁の物がたりに、此ほど白氏文集を見て、老鶯といひ、病蠶といへる此詞のおもしろければ、
 鶯や竹の子藪に老を啼
 さみだれや蠶わづらふ桑の畑
かく此二句をつくり侍しが、鶯は筍藪といひて、老若の余情をいみじく籠り侍らん。蠶は熟語をしらぬ人は、心のはこびをえこそ聞まじけれ、是は筵の一字を入て家に飼たるさまあらんと、其句のままに申捨らしが、例の泊船集に入たるよし。」(『芭蕉俳諧論集』小宮豊隆、横沢三郎編、1939、岩波文庫、P.139)

 ただ、ここでは「竹の子」という夏の季語が入ってるので、この時はまだ「老鶯」を夏の季語として提起したわけではなかったのだろう。
 句は老いた丈山の姿を思い浮かべ、老鶯に喩えたものか。「老鶯」は「老翁」に通じる。季節は春として扱われている。

二十一句目

   篠を杖つく老の鶯
 剪銀鮎一寸       素堂

 書き下し文だと、

   篠を杖つく老の鶯
 銀(しろかね)を剪(き)つて鮎一寸 素堂

となる。
 「鮎一寸」は鮎の子で春の季語になる。
 これは対句的な展開で、相対付けといえよう。老鶯に若鮎が対句になる。「剪銀」は比喩で、銀を細く切ったような、という意味。

二十二句

   剪銀鮎一寸
 箕面の滝や玉を簸(ひる)らん 芭蕉

 「簸る」はコトバンクの「デジタル大辞泉」によれば、

 「[動ハ上一]箕(み)で穀物をあおって、くずを除き去る。
「糠(ぬか)のみ多く候へば、それをひさせんとて」〈著聞集・一六〉」

だという。箕面の地名に掛けて、「簸る」とする。
 箕面の滝は箕面大瀧とも呼ばれている。役行者も修行したといわれている。箕面瀧安寺は修験の寺だが、その一方で富籤でも有名だった。ただし、箕面の場合は金銭ではなく牛王宝印の護符だった。
 芭蕉も貞享五年の『笈の小文』の旅を終えて明石から戻る途中に立ち寄っている。
 箕面の滝や玉を簸るというのは、滝の水によって玉が選り分けられるように白銀のような鮎の子がきらきら光るというもの。「簸る」という言葉に富籤をほのめかしたのではないかと思われる。

二十三句目

   箕面の滝や玉を簸らん
 朝日影頭の鉦をかがやかし  芭蕉

 「鉦(かね)」は金属の皿の形をした打楽器。真鍮製の黄金に輝くものもあり、芭蕉は朝日に喩えている。
 滝の玉に朝日のような鉦はともに丸く輝くもので、響き付けになる。

二十四句目

   朝日影頭の鉦をかがやかし
 風飱喉早乾        素堂

 「風飱(ふうさん)喉早乾(のどはやかはく)」と読む。検索すると中国のサイトに「露宿風飱」だとか「風飱水宿」とかいう言葉が見られる。
 露に宿し、風を餐とするというのは飲まず食わずの野宿のことと思われる。
 朝日が鉦のように輝く中、野宿して早くも喉が乾く。

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