今日はかなり気温が上がり、汗ばむ陽気だった。
染井吉野や山桜はすっかり葉の桜になったが、八重桜は見頃になった。春はまだ終わらない。
それでは「木のもとに」の巻の続き。
十六句目
ねて居かおかしく犬の尾をすべて
神事見たつるわぎもこがたち 土芳
(ねて居かおかしく犬の尾をすべて神事見たつるわぎもこがたち)
これはまた難しいというか意味が全然わからない。でも近代連句のようなただの連想ゲームではないだろう。近代連句だとただ連想したことを自動記述的に付けるシュール付けが多いが。
宮本三郎の註によると、「犬→神前」は『類船集』の付け合いだから、物付けと思われる。物付けの場合はかなり強引に辻褄を合わせてたりする。
とりあえず、「神事 太刀」とかで検索してみると、いろいろ太刀にまつわる神事が出てくる。
ただ、太刀を振るのはたいてい男なので、検索項目に「女」を加えてみると、島田大祭というのが目に止まった。安産祈願の祭で、元は女性が帯を披露していたのだが、やがてそれが大奴(男)が太刀に帯をかけて練り歩くようになったという。
安産祈願という所で犬と神事は結びつく。句の方は「神事見たつる」だから神事ではないが神事を真似てということで、寝ている犬の脇で模造の太刀を持ってきて神事っぽく安産祈願を行ったということか。
無季。「神事」は神祇。「わぎもこ」は恋、人倫。
十七句目
神事見たつるわぎもこがたち
饅頭のべにつけちらすはなざかり 半残
(饅頭のべにつけちらすはなざかり神事見たつるわぎもこがたち)
宮本三郎の註によると、「饅頭→祭」が『類船集』の付け合いなので、これも物付けになる。
花の定座ということで、前句を花見の余興に取り成したのだろう。天和の頃の、
花に酔へり羽織着て刀さす女 芭蕉
の発句もある。この種のコスプレは花見の時にはよくあることだったのか。
花見というと普通は酒だが女の「わぎもこ」の花見なので饅頭になる。紅で染めた饅頭というと紅白饅頭のようなものか。
塩瀬総本家のHPによると、十四世紀に塩瀬の始祖・林淨因が紅白饅頭を作っていたという。
桜というと桜餅だが、ウィキペディアによると、「南方熊楠によれば、桜餅の知られている出現は天和三年(一六八三年)である。太田南畝の著『一話一言』に登場する京菓子司、桔梗屋の河内大掾が菓子目録に載せたという。」とある。
餅を桜の葉で包んだものだが、当時の桜の主流は山桜で白かったから、桜餅も今みたいなピンク色ではなかった。長命寺の桜餅は享保二年(一七一七年)だから、この頃はまだなかった。その長命寺の桜餅も白い。桜餅がピンクになったのは染井吉野が広まってからのことだ。
季題は「はなざかり」で春。植物、木類。
十八句目
饅頭のべにつけちらすはなざかり
日長きそらに二日酔ざけ 三園
(饅頭のべにつけちらすはなざかり日長きそらに二日酔ざけ)
前句の花見の饅頭を二日酔いのせいだとする。「もう酒なんて見たくもない」なんて言いながら饅頭食っているのか。それでも次の日になるとまた飲んじゃうのが酒飲みの性。
この句の「日長きそら」はいかにも長閑で桜とあいまって目出度い感じなので、本来は半歌仙の挙句だった可能性がある。
季題は「日長」で春。
0 件のコメント:
コメントを投稿