今日は暖かい一日だったが昼過ぎに雲が出て、ポツリポツリと雨が降った。
桜もかなり葉に変わり、明日は最後のお花見のチャンスになるか。
さて、それでは「木のもとに」の巻の続き。初裏に入る。
七句目
猿のなみだか落る椎の実
石壇の継目も見へず苔の露 風麦
(石壇の継目も見へず苔の露猿のなみだか落る椎の実)
「涙」に「露」が付く。古来、涙は露に喩えられてきた。
鳴き渡る雁の涙や落ちつらむ
物思ふ宿の萩の上の露
よみ人しらず(『古今和歌集』)
を本歌と見ることもできる。雁を猿に、萩を苔に変えている。椎のみを猿の涙に喩えた前句に対し、ここでは苔の露が「猿のなみだか」となり、「落る椎の実」はそれに添えた景色となる。
苔むして石壇の継ぎ目も見えずという姿に一興ある。「石壇」は石で作られた祭壇。
季題は「露」で秋。「苔」は植物。
八句目
石壇の継目も見へず苔の露
㒵(かほ)よごれたる賤(しづ)の子供ら 良品
(石壇の継目も見へず苔の露㒵よごれたる賤の子供ら)
長く用いられず放置され、苔むした石の祭壇は、近所の子供たちの格好の遊び場となる。
無季。「顔」「子供」は人倫。
九句目
㒵よごれたる賤の子供ら
判官の烏帽子ほしやと思ふらん 土芳
(判官の烏帽子ほしやと思ふらん㒵よごれたる賤の子供ら)
宮本三郎の註には、
「謡曲『烏帽子折』に金売吉次に伴われ奥州に下る牛若を、田舎の子と見立てた付か。同曲中にその途次、牛若が烏帽子屋に左折の烏帽子を所望し、烏帽子屋の主に身分を知られる条がある。或はそれを踏まえたか。」
とある。おそらく間違いないだろう。ただ、ここで登場するのは牛若丸ならぬ田舎の子供たちで、この子達はさすがに判官の烏帽子を欲しいとは思わないだろう、という意味になる。「らん」は反語になる。
金売吉次はウィキペディアによれば、「奥州で産出される金を京で商う事を生業としたとされ、源義経が奥州藤原氏を頼って奥州平泉に下るのを手助けした」という。
金売吉次の墓は壬生から鹿沼に向かう途中にあり、曾良の奥の細道の『旅日記』にも、
「ミブヨリ半道バカリ行テ、吉次ガ塚、右ノ方廿間バカリ畠中ニ有」
と記されている。芭蕉も見ているはずだ。
無季。「判官」は人倫。「烏帽子」は衣装。
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