2023年7月27日木曜日

 それではX奥の細道の続き。

六月十日

今日は旧暦6月9日で、元禄2年は6月10日。羽黒山。

今日は朝から曇っている。今日も本坊から呼ばれているが、鶴岡の長山五郎右衞門にも呼ばれているので、ここを出て鶴岡に向かおうと思う。
曾良も出羽三山のの発句を作った。

月山や鍛治が跡とふ雪清水 曾良

曾良「月山に登ったら鍛治小屋が雪の中にあったけど、季語をどうしようかと思って、雪清水という造語はちょっと苦し紛れだったかな。」

銭踏て世を忘れけりゆどの道 曾良

「これは芭蕉さんに褒められた。」

三ヶ月や雪にしらげし雲峰 曾良

曾良「月山山頂に着いたら、三日月が見えて、これまで真っ白な雲の峰を見ながら雪の中を歩いて、その合間に白い花が見えて、白い世界だった。
自分は白芥子だと思ったが芭蕉さんは桜だという。どっちなんだろう。(注、チングルマのことと思われる。バラ科なので、桜の方が近い。)

昼前に本坊へ行き、蕎麦に酒やお茶をご馳走になった。若王寺の人達ともこれでお別れだ。
円入は五重塔の先の大きな杉の木の所まで送ってくれた。その先に身を清めるための場所があって、出る時もここで身を清めて行くことにした。

そういえば忘れてたが、寛永の頃に羽黒山を復興した天宥法印の法難の話を聞いて、そのあと天宥法印の書いた四睡図のさんも頼まれたっけ。

其玉や羽黒にかへす法の月 芭蕉
月か花かとへど四睡の鼾哉 同

門前の佐吉の家に行ったら馬が一頭しかなくて、自分だけ乗った。
門前町の端の方の黄金堂の所で釣雪と別れた。佐吉は一緒に鶴岡へ行く。

佐吉も一緒に鶴岡へ向かうと小雨が降り出したが、大したことはなかった。
長山五郎右衞門の家に着いて、お粥を頂いて一休みしたら、早速興行しようと言われた。
お粥のおかずに茄子があったので、

めづらしや山をいで羽の初茄子 芭蕉

五郎右衞門「俳号は重行でがんす。蝉の鳴く中に井戸があるだけの粗末な家だがの。」

  めづらしや山をいで羽の初茄子
蝉に車の音添る井戸 重行

曾良「ここは機織りの盛んな所と聞いてます。」

  蝉に車の音添る井戸
絹機の暮鬧しう梭打て 曾良

露丸「それでは四句目なので軽く時節を。」

  絹機の暮鬧しう梭打て
閏弥生もすゑの三ヶ月 露丸


六月十一日

今日は旧暦6月10日で、元禄2年は6月11日。鶴岡。

昨日の俳諧の続きをした。

重行「閏三月の末といえば梨の花でがんす。」

  閏弥生もすゑの三ヶ月
吾顔に散かかりたる梨の花 重行

芭蕉「梨の花といえば謡曲楊貴妃の梨花一枝。楊貴妃の霊があらわれると胡蝶の舞になる。ここでは胡蝶の盃にしておこう。」

  吾顔に散かかりたる梨の花
銘を胡蝶と付しさかづき 芭蕉

露丸「盃といえば別れの盃で、島隠れする船を思う。」

  銘を胡蝶と付しさかづき
山端のきえかへり行帆かけ舟 露丸

曾良「船が行ってしまったのは何の風情もない里でしたから。せめて蓬くらいでも茂っててくれたら末摘花の面影もあるでしょうに。」

  山端のきえかへり行帆かけ舟
蓬無里は心とまらず 曾良

芭蕉「蓬は食用にもなるからな。粟稗の素食に飽きて、更なる素食を求める僧が次に食べたがるのが蓬だった。」

  蓬無里は心とまらず
粟ひえを日ごとの斎に喰飽て 芭蕉

重行「修行のために粟稗を食ってきた武士が、力がついたかと石に向かって弓を引いてその威力を試す。」

  粟ひえを日ごとの斎に喰飽て
弓のちからをいのる石の戸 重行

曾良「根っからの武人の家系だから、木刀にするための赤樫を母の形見に植える。」

  弓のちからをいのる石の戸
赤樫を母の形見に植をかれ 曾良

露丸「母の形見は赤樫だけでなく、その木が目印の小さな田んぼだった。」

  赤樫を母の形見に植をかれ
雀にのこす小田の刈初 露丸

重行「小さな田んぼの持ち主は亡くなってしまったか、雀が食べるだけで刈る人もなくて、門の板橋も崩れたままだ。」

  雀にのこす小田の刈初
此秋も門の板橋崩れけり 重行

芭蕉「蟄居を命じられた人の家だろう。他の人は赦免されたのに一人だけまだ家から出られず、門の板橋も直せない。配所の月のような気持ちで月を見る。‥万菊丸はどうしてるかな。」

  此秋も門の板橋崩れけり
赦免にもれて独り見る月 芭蕉

露丸「配所の月を明け方まで見て、夜明けの寺の鐘を聴くと、男女の後朝の別れのように切なくなる。」

  赦免にもれて独り見る月
衣々は夜なべも同じ寺の鐘 露丸

曾良「宿で夜通し働いてる女中さんが、宿場の遊女を連れ込んだ客に嫉妬する。」

  衣々は夜なべも同じ寺の鐘
宿クの女の妬きものかげ 曾良

重行「良家に婿養子に取られた若武者が花見のために馬に乗って宿場を通ると、密かに恋してた宿場の女中が物陰から見ている。」

  宿クの女の妬きものかげ
婿入の花見る馬に打群て 重行

露丸「この婿入りはお家再興のためのもので、古い城郭は壊されて畑が作られている。」

  婿入の花見る馬に打群て
旧の廓は畑に焼ける 露丸

昼頃から体調がすぐれず、今日の興行はここで終わりにした。

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