2023年7月25日火曜日

  それでは今日はツイッター改めエックス奥の細道の続き。

六月五日

今日は旧暦6月4日で、元禄2年は6月5日。羽黒山。

明日は月山に登ってそこから湯殿山にも行こうということで、まず羽黒山神社から参拝することにした。
一応修験の習慣に習って、今日の午前中は断食をした。
その間に佐吉と釣雪がやって来て、昨日の俳諧の続きをした。

釣雪「夜分を離れなくてはいけないからな。旅体にして昼間は木陰で眠って、夜に砧を聞くってことにしましょう。」

  北も南も砧打けり
眠りて昼のかげりに笠脱て 釣雪

芭蕉「では木曽の旅にしよう。姨捨山に行った時、中山道を牛が荷物を運んでたな。」

  眠りて昼のかげりに笠脱て
百里の旅を木曽の牛追 芭蕉

露丸「木曽で牛といえば木曽義仲の火牛の計。本人の登場ではなく、跡を弔うために旅してた坊さんかなんかで、木曽義仲の隠れ城のことを記す。」

  百里の旅を木曽の牛追
山つくす心に城の記をかかん 露丸

曾良「だったら城を建てる木材を調達する時に、神木の森を避けた、というのは。」

  山つくす心に城の記をかかん
斧持すくむ神木の森 曾良

釣雪「ひょっとして曾良さん、みちのくの旅で野宿をしようとして木を切ろうとしたとか。俳諧ではなくここは和歌に変えて。」

  斧持すくむ神木の森
歌よみのあと慕行宿なくて 釣雪

露丸「歌を詠めば鬼神も感銘して涙を流す。泊まる宿もなければ節分の豆まきもできないが、そこは歌を詠んで鬼を泣かす。」

  歌よみのあと慕行宿なくて
豆うたぬ夜は何となく鬼 露丸

午後からまた羽黒山の俳諧の続きをした。

芭蕉「昔の御所は公的な太極殿は瓦葺きだったが、私的な紫宸殿は檜皮葺きだったという。その跡が今はお寺になって、昔の追儺の儀式は失われている。」

  豆うたぬ夜は何となく鬼
古御所を寺になしたる檜皮葺 芭蕉

梨水「どうも、本坊の方から迎えに来ました。えっ、一句?お寺だから萩が咲いてて、荒れた寺だから枝垂れた枝や立ち枝が絡まってたりして。」

  古御所を寺になしたる檜皮葺
糸に立枝にさまざまの萩 梨水

曾良「萩の庭のある家で寝てると、急に月が出たと言って起こされたりしますね。鹿島根本寺で仏頂和尚のいきなり起こされましたな。結局月は見えなかったんですけどね。」

  糸に立枝にさまざまの萩
月見よと引起されて恥かしき 曾良

芭蕉「恥ずかしきとくれば女の恥じらう姿で恋だな。乱れ髪で薄物を着ただけで。」

  月見よと引起されて恥かしき
髪あふがするうすものの露 芭蕉

露丸「乱れ髪で薄物着た遊女といえばモフモフを飼ってたりして。狆の頭を花の枝で飾ったりして。」

  髪あふがするうすものの露
まつはるる犬のかざしに花折て 露丸

釣雪「裕福な武家の娘の飼ってる犬にしましょうか。庭に弓矢の練習場があって、その片隅に咲いた山吹の花を折ってかざす。」

  まつはるる犬のかざしに花折て
的場のすゑに咲る山吹 釣雪

夕食を取ってから羽黒山神社に行った。一度本坊の方に戻ってから山の上の方に登って行く。
山の上の社からだと麓の若王寺の大伽藍や五重塔が闇に沈もうとしていて、その向こうに月が見えた。

六月六日

今日は旧暦6月5日で、元禄2年は6月6日。月山に登る。

今朝はよく晴れて絶好の登山日和となった。七号目の高清水までは馬で行き、そこからが本当の登山になる。

七合目高清水で馬を降りた。馬での七里は長かった。
八合目の小屋で昼食を食べて、弥陀原を過ぎると至る所雪が残っていた。
日もすっかり傾いた頃山頂に着いて、山頂の御室に参拝して近くの角兵衛小屋に泊まった。

昼間は時折入道雲も湧いて出て来たが、大きく天気が崩れることもなく、夕暮れには雲もなく、半月に近い月が浮かんでた。

雲の峰幾つ崩て月の山 芭蕉

六月七日

今日は旧暦6月6日で、元禄2年は6月7日。月山に登る。

今日も良い天気で、朝早く角兵衛小山を出て湯殿山に向かった。鍛治屋敷があった。名刀月山はここで作られたのか。
辺りの雪原の切れ目には所々白い小さな草花が咲いてた。まだ蕾が多いが、咲いてたのは五枚の花弁で桜のようだった。

牛首にも小屋があり、ここでも泊まれるようだった。水を貰って体を清めた。
その先は下りの道になり、しばらく行くと装束場があって、ここで衣装を整えた。湯殿山はさらに降りた所で、参拝の人が沢山いた。

湯殿山は温泉自体が御神体で、お金や荷物を置いて浄衣を着て入浴した。行列ができてるため、ゆっくり浸かる暇もなく、あくまで参拝だ。
なお、ここで見たものは語ってはいけないという。

語れぬ湯殿にぬらす袂哉 芭蕉

湯殿山を出ると、さっき下ってきた坂を登って、昼には月山山頂に戻り、角兵衛小屋で昼食を食べた。
ここから先の下りが長いが、とりあえず高清水まで行けば馬がある。

高清水から馬に乗り強清水まで降りると、光明坊から御迎えの者たちが夕食の弁当を持ってやって来た。
既に辺りは薄暗く、食べ終えると南谷まであと三里。
南谷に着いた時にはすっかり暗くなっていた。

六月八日

今日は旧暦6月7日で、元禄2年は6月8日。羽黒山。

一昨日昨日と弾丸登山になってしまい、今日はゆっくり休もうと思ったが、午後からは別当執行代和交院に招待されている。午前中だけでも休んどかないと。朝から雨が降ってることだし。

六月九日

今日は旧暦6月8日で、元禄2年は6月9日。羽黒山。

昨日は夕方まで別当代和交院のところで過ごた。
今日天気が良く、朝は抜いたが昼に素麺を食べた。
そのあと和交院が酒と料理を持ってやってきて、俳諧の続きをやることになった。

芭蕉「武家の弓矢の練習場の片隅には、息子が七つの時に持ち上げて力石が記念にとってあったりする。」

  的場のすゑに咲る山吹
春を経し七ツの年の力石 芭蕉

露丸「日本武尊にも幼い時があったんだろうな。最後は伊吹山の神と戦って破れ、醒ヶ井の水で目を醒ましたという。この戦いが原因で亡くなったという。」

  春を経し七ツの年の力石
汲ていただく醒ヶ井の水 露丸

円入「醒ヶ井というのは山の中だったかのう。そこで旅人が水を貰うんだね。足を引いて、腰の辺りまでの蓑も捻じ切れてたりすんのじゃよ。」

  汲ていただく醒ヶ井の水
足引のこしかた迄も捻蓑 円入

曾良「これは乞食を装った忍者でしょうね。敵の門の前で二日間寝たふりをして見張ってて、敵の動向を探るとは、まさに隠れ蓑ですな。」

  足引のこしかた迄も捻蓑
敵の門に二夜寝にけり 曾良

露丸「仇討ちしようとかたきの門の前で待ってたら、あっさり返り討ちに合う。」

  敵の門に二夜寝にけり
かき消る夢は野中の地蔵にて 露丸

芭蕉「お地蔵さんの所で野宿してて、はっと夢から覚めると野犬の声がする。野犬は妻を探して遠吠えしてたのか。」

  かき消る夢は野中の地蔵にて
妻恋するか山犬の声 芭蕉

梨水「山犬は狼のことを言う場合もあるので、狼の棲むこの辺りの山の景色を付けておきましょう。」

  妻恋するか山犬の声
薄雪は橡の枯葉の上寒く 梨水

露丸「薄雪の積もる頃はやはり温泉。」

  薄雪は橡の枯葉の上寒く
湯の香に曇るあさ日淋しき 露丸

釣雪「朝早くというと狩り。マタギの人が弓でムササビを射る。」

  湯の香に曇るあさ日淋しき
鼯の音を狩宿に矢を矧て 釣雪

円入「殺生はいけません。ムササビの命の奪われる頃、山伏たちは篠懸けを着て終夜修行する。結構結構。」

  鼯の音を狩宿に矢を矧て
篠かけしほる夜終の法 円入

曾良「月山は地名ですが、ここは月山にかかる真如の月も含んでのこととして、修行してる人達の労を労っておきましょう。嵐に風は大変です。」

  篠かけしほる夜終の法
月山の嵐の風ぞ骨にしむ 曾良

梨水「月山といえば刀鍛冶。嵐の稲妻で作業を終えても、火は絶やさない。」

  月山の嵐の風ぞ骨にしむ
鍛治が火残す稲づまのかげ 梨水

露丸「稲妻の季節になると桐の葉も散り始め、心太もそろそろ終わりになる。」

  鍛治が火残す稲づまのかげ
散かいの桐の見付し心太 露丸

釣雪「桐の木に掛けておいた鳴子が鳴って、知らない人は驚く。」

  散かいの桐の見付し心太
鳴子とどろく片藪の窓 釣雪

芭蕉「鳴子の鳴る家は空き家に住み着いた泥棒で、追手が来たら分かるような鳴子を付けている。妹を何とか食わせようと盗みをする兄という設定にしておこう。」

  鳴子とどろく片藪の窓
盗人に連添妹が身を泣て 芭蕉

曾良「この泥棒兄妹は関を越えて他国へ逃れようとして、関の明神に祈る。白河は奥州街道も東山道も二つの明神様が祀られてたな。」

  盗人に連添妹が身を泣て
いのりもつきぬ関々の神 曾良

芭蕉「さあ最後の花ですので、ここは阿闍梨さん一つ。」
会覚「そう言われてもな。まあ、関所での別れの盃ということで、川に流れる桜の花びらでも肴にしてってことでいいじゃろ。」

  いのりもつきぬ関々の神
盃のさかなに流す花の浪 会覚

梨水「では酒宴に燕の舞でも。」

  盃のさかなに流す花の浪
幕うち揚るつばくらの舞 梨水

0 件のコメント:

コメントを投稿