2023年7月20日木曜日

  それではツイッターの奥の細道の続き。

六月一日

今日は旧暦5月30日で、元禄2年は6月1日。奥の細道。

大石田を出て新庄の渋谷甚兵のところに向かう。風流のところで風流をしにいくわけだが、紛らわしい俳号だ。絵画という絵師がいるようなもんだ。
平右衞門が舟形までの二人分の馬を用意してくれて、加助と一緒に猿羽峠まで見送りに同行してくれた。

舟形で馬を降りるとそこから先は暑い中を歩いた。
途中柳の木の影に清水があった。水は冷たく、生き返るような心地だった。
折から今日は6月1日。この日は朝廷へ氷室の氷の献上のある日で、それに倣って公方様の所にも加賀藩から氷が献上される。

氷ではないが、この冷たい清水は有り難く、氷室の氷を献上された殿様になった気分だ。

水の奥氷室尋る柳哉 芭蕉


六月二日

今日は旧暦6月1日で、元禄2年は6月2日。新庄。

すっかり梅雨明けで暑い日が続く。昨日は風流こと渋谷甚兵の家に泊まった。
午後からは甚兵の兄の九郎兵衛の家で興行することになった。8人は集まるというので、広い兄の家の方が良いとのことだ。
一応発句を用意しないと。

九郎兵衛邸での興行で一応薫風自南来 殿閣生微涼という禅語を出典として、

風の香も南に近し最上川 芭蕉

の発句も用意したが、風流の発句が当座の興にあっているのでこっちにした。

お尋に我宿せばし破れ蚊や 風流

それで会場を移しました。

新庄での俳諧。

芭蕉「いやいや全然狭くなかったし、蚊帳も破れてなかったし、それに今は風薫る候なので、まるで高価なお香を焚いただ。」

  御尋に我宿せばし破れ蚊や
はじめてかほる風の薫物 芭蕉

孤松「初めて薫るというのを菊の香りにしましょう。ススキも折って軽くあしらっておきましょう。」

  はじめてかほる風の薫物
菊作り鍬に薄を折添て 孤松

曾良「それでは菊とススキに背景を添えておきましょう。霧に日の光が反射して虹ができる。」

  菊作り鍬に薄を折添て
霧立かくす虹のもとすゑ 曾良

柳風「月に虹が掛かる珍しい光景についつい浮かれて二里も遠くまで行ってしまった。」

  霧立かくす虹のもとすゑ
そぞろ成月に二里隔てけり 柳風

盛信「では今日は私盛信こと九郎兵衛が執筆を務めさせてもらう。二里といえば京から逢坂山まで、月といえば駒迎え。」

  そぞろ成月に二里隔てけり


六月三日

今日は旧暦6月2日で、元禄2年は6月3日。奥の細道。

今日も良い天気で、新庄を出て合海から最上川を船で下って清川へ行き、そこから羽黒山へ向かう。
この船に同船した二人の僧は前に深川にいた毒海長老の知り合いだという。

何事も招き果てたるすすき哉 芭蕉

の句を追悼に詠んだっけ。

最上川を下り途中、古口の船関を通った。ここから清川の船関までが左右の山が迫り、仙人堂や白糸の滝があった。
最上川というと古今集東歌に、

最上川登れば下る稲舟の
   いなにはあらずこの月ばかり

の歌があったな。

ここ何日か晴天が続いてたので、それほど急流という感じはしないし、昔から船が上ってたのもわかる。
ただ名所名寄には、

稲船も登りかねたる最上川
   しばしばかりといつを待ちけむ

の歌もあったな。五月雨に詠むんだったら「集めて速し」か。

清川で船を降りて陸路で羽黒山に向かった。着いた時には日も西に傾いてた。
あらかじめ曾良が連絡を入れていた佐吉は留守で、待ってると本坊から帰ってきたが、また曾良に手紙を持たされて本坊との間を往復した。

宿泊地の南谷に着いた頃には、空にほんのり三日月が見えていた。

涼しさやほの三日月の羽黒山 芭蕉


六月四日

今日は旧暦6月3日で、元禄2年は6月4日。羽黒山。

今日も良い天気だが、尾花沢出てからゆっくりできなかったので一休みだ。
昨日の夜、観修坊釣雪という僧がやって来て、曾良の旧友だというので盛り上がってた。
釣雪は尾張にもいる。柳宗元の独釣寒江雪の詩句は有名だからな。

午前中はゆっくり休んだ。宿泊所は別院紫苑寺といって、会覚阿闍梨の隠居所で、滝の水を引き込んだ水風呂と高野山式の水洗便所があった。
午後は本坊の若王寺宝前院に呼ばれて蕎麦をご馳走になり、別当代の会覚阿闍梨と浄化教院の江州円人に会った。

昼食の後、佐吉や釣雪や羽黒山の僧を交えて興行した。

芭蕉「月山は夏でも雪があって、そこから吹いてくる風が涼しいですね、という意味だが、ここは雪を薫らすと敢えて風の言葉を抜いてみた。」

有難や雪をかほらす南谷 芭蕉

佐吉「俳号は露丸ね。風の抜けならこちらは露の抜けとしましょうか。南谷の別邸も今は夏草が茂って、露に濡れる。」

  有難や雪をかほらす南谷
住程人のむすぶ夏草 露丸

曾良「夏草だと一応草の中で光る蛍ということで、水辺に展開しましょうか。」

  住程人のむすぶ夏草
川船のつなに蛍を引立て 曾良

釣雪「蛍だから暗くなる頃ということで、月を出しましょう。鵜のどこかへ飛び去った空には三日月が残っている。」

  川船のつなに蛍を引立て
鵜の飛跡に見ゆる三日月 釣雪

珠妙「その空には天の川があって秋風が吹く。鵜をカササギに見立てて。」

  鵜の飛跡に見ゆる三日月
澄水に天の浮べる秋の風 珠妙

梨水「秋の夜ということで、あちこちから砧を打つ音が聞こえてくる。」

  澄水に天の浮べる秋の風
北も南も砧打けり 梨水

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