それでは「隨縁紀行」の続き。
「廿三日伊勢ヨリ長谷路へ出候
田丸ヨリ檜ノ牧迄重山嶮岨ヲ越ス
風景時としてうつりかはる尤奇絶の地也
山畑の芋ほるあとに伏猪かな 晋子
しぶ柿のいつまで枝の住ゐかな キ翁
焼栗や灰ふきたつる山おろし 尺草
こなし屋に子共等寒し稲むしろ 横几
かけわたす小屋別なり新たばこ キ翁
霧はれて糠やく畑のけぶりかな 岩翁
川芎の香に流るるや谷の水 晋子
一ツをばあくらかかするかかし哉 キ翁」
九月二十三日に、伊勢から長谷へ向かう。
田丸は今の玉城町で、伊勢から宮川を渡り、西へ行った所にJR参宮線の田丸駅がある。伊勢本街道になる。
檜ノ牧は榛原檜牧であろう。今の宇陀市になる。
伊勢本街道は今の国道368号線422号線369号線に受け継がれている道で、飼坂峠を越えて伊勢奥津(奥津宿)へ出て、石割峠を越えて榛原へ抜ける。この間は終始深い山の中を通る。
山畑の芋ほるあとに伏猪かな 晋子
山の中では猪の姿を見ることもあっただろう。収穫した後の里芋畑何かにも、我が物顔で猪が寝てたりする。
しぶ柿のいつまで枝の住ゐかな キ翁
渋柿が収穫されないままいつまでも枝に残っている。
焼栗や灰ふきたつる山おろし 尺草
宿場の茶屋で焼栗を売っていたが、山から吹き下ろす風がひどくて、近づくと灰まみれになりそうだ。
こなし屋に子共等寒し稲むしろ 横几
こなし屋はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「熟部屋」の解説」に、
「〘名〙 穀物を脱穀、精製したりする作業所。こなし屋。こなし小屋。秋小屋。
※開化の入口(1873‐74)〈横河秋濤〉上「茅葺の門長屋、広庭の植ごみ、こなし部屋から牛部屋の景況」
とある。大きな唐臼が何台も並ぶ大規模なものもあるが、粉塵が飛ぶため火気厳禁になっている。粉塵爆発の危険があるからだ。
そのため子供たちは寒くて稲筵を体に巻いている。
かけわたす小屋別なり新たばこ キ翁
煙草は夏に収穫して乾燥させ、秋に新たばこになる。他の収穫物とは分けて特別な小屋が作られていたか。
霧はれて糠やく畑のけぶりかな 岩翁
山の中の霧は晴れても煙が残っていると思ったら、畑で糠を燃やしていた。ここでは籾殻のことか。
川芎の香に流るるや谷の水 晋子
川芎(せんきゅう)はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「川芎」の解説」に、
「〘名〙 セリ科の多年草。中国原産で、薬用植物として栽培される。高さ三〇~六〇センチメートル。葉は二回三出の羽状複葉で各小葉には鋭い鋸歯(きょし)がある。茎葉は根生葉と同様に有柄で、葉柄の基部は幅広い鞘となってゆるく茎を抱く。秋、茎の先端に複散形花序をつけ、それぞれの枝の先に白い小さな五弁花を球状に密生する。根茎を頭痛、鎮静薬に用いる。中国四川省産の品が優れていたため四川芎藭を略して呼んだもの。漢名、芎藭。おんなかずら。女草。《季・秋》
※桂川地蔵記(1416頃)上「薬種〈略〉陳皮、川芎」
とある。秋の季語になる。
一ツをばあぐらかかするかかし哉 キ翁
案山子というと一本足で立っているイメージだが、一つだけ胡坐をかいている案山子がある、と思ったら作業をしている人だった。
0 件のコメント:
コメントを投稿