今日は午後から雨が時折強く降った。こんな雨の中でも隅田川では花火をやったらしい。近所の盆踊りは中止になっていた。
では、「柳小折」の巻の続き。
二十五句目
御前はしんと次の田楽
追込の綱を鼡のならす音 酒堂
(追込の綱を鼡のならす音御前はしんと次の田楽)
中村注には「追込」は「見物席の末の方」だという。辞書には「劇場で、人数を限らず客を押し詰める安い料金の見物席。追込桟敷。」とある。
田楽のために用意された会場の席には今は誰もいず、ただ張り巡らされた綱を鼠が鳴らす。
二十六句目
追込の綱を鼡のならす音
隣の明屋あらし吹也 素牛
(追込の綱を鼡のならす音隣の明屋あらし吹也)
「追込」は追込桟敷のこととは限らず、単に多くの人や物を一箇所に詰め込むことをも言う。ここではどのような綱かはわからないが、追い込まれた鼠が暴れて音を立てている。さながら嵐のようだ、ということか。
二十七句目
隣の明屋あらし吹也
葬礼のあとで経よむ道心坊 去来
(葬礼のあとで経よむ道心坊隣の明屋あらし吹也)
「道心坊」はコトバンクによれば、「1 成人してから仏門にはいった人。2 乞食(こじき)僧。乞食坊主。」と二つの意味があり、ここでは乞食坊主のことか。葬式は正式なお寺のお坊さんが経を読んだが、そのあとで死者に縁のあった乞食僧なのだろうか、開き屋になった古人の家で、嵐の中で経を読んでいる。
二十八句目
葬礼のあとで経よむ道心坊
手拭脱でおろす牛の荷 支考
(葬礼のあとで経よむ道心坊手拭脱でおろす牛の荷)
一心に経を読む乞食僧がいると、土地の百姓さんがほっかむりの手拭を取って牛の背から荷物を降ろす。乞食僧への謝礼だろうか。
二十九句目
手拭脱でおろす牛の荷
川ひとつ渡て寒き有明に 芭蕉
(川ひとつ渡て寒き有明に手拭脱でおろす牛の荷)
月の定座だが、芭蕉さんに遠慮して誰も付けたがらなかったか。
哀傷の有心の句が続いた後だから、ここはさらっと景色を付けて流す。
冬の明け方、有明の月の残る頃、荷を乗せた牛を引きながら冷たい川を渡り、渡り終えるとほっかむりを解いて牛の荷を降ろす。
三十句目
川ひとつ渡て寒き有明に
岩にのせたる田上の庵 丈草
(川ひとつ渡て寒き有明に岩にのせたる田上の庵)
「田上(たなかみ)」は近江の大津にある田上山のことで、貞観元年(八五九)に智証大師円珍が開いた太神山不動寺がある。本堂は巨岩の上に建っている。
ここではお寺ではなく「庵」なので、太神山不動寺創建の故事を連想させながらも、草庵に住む風狂の徒に変えている。
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