寒い寒いと言いながらも確実に暖かくなってはきている。Jリーグの始まる頃になると杏の花が咲くのは例年通りだ。大島桜のなかには、すでに開花しているものがある。芭蕉の句ではないが「ああ春々」ってとこだ。
子規の『芭蕉雑談』の「彼佶屈聱牙なる漢語を減じて」は天和調からの脱却を言わんとしているようだが、実際の所、芭蕉のいわゆる天和調の句といっても漢語の比率はそれほど多くない。漢文の書き下し分の文体を真似ているだけで、語彙そのものは和語が中心となっている。
延宝八年
於(ああ)春々大哉春と云々 芭蕉
夜ル竊(ひそか)ニ虫は月下の栗を穿ツ 同
枯枝に烏のとまりたるや秋の暮 同
延宝九年・天和元年
愚案ずるに冥途もかくや秋の暮 同
雪の朝独リ干鮭(からざけ)を嚙得タリ 同
夕顔の白ク夜ルの後架(こうか)に紙燭とりて 同
芭蕉野分して盥に雨を聞夜哉 同
櫓の声波ヲうって腸氷ル夜やなみだ 同
天和二年
髭風ヲ吹て暮秋歎ズルハ誰ガ子ゾ 同
貧山の釜霜に啼声寒し 同
夜着は重し呉天に雪を見るあらん 同
氷苦く偃鼠(えんそ)が喉をうるほせり 同
このうち漢語は「云々」「月下」「愚」「案ずる」「冥途」「後架」「紙燭」「芭蕉」「櫓」「暮秋」「歎ずる」「貧山」「呉天」「偃鼠」だが、「芭蕉(ばせを)」は古今集にも用いられていて雅語でもある。
この十二句の中で、「枯枝に」の句と「雪の朝」は漢語が入っていない。漢語が二語以上ある句は、「愚案ずるに」の句、「夕顔の」の句、「髭風ヲ吹て」の句の三句で、全体としてそんなに多くはない。この頃の句は漢文の書き下し文調というだけで、漢語がとりわけ多いわけではない。
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