『風俗文選』の文章も行分けすれば何となく近代的に見えるし、さらにそれを連にすれば大分印象も変わってくる。
試しに支考の「猫祭文」を近代的に表記してみた。
猫を祭る文
各務支考
李四が草庵に
ひとつの猫ありて
これをいつくしみ思うこと
人の子をそだつるに殊ならず
ことし長月二十日ばかり
隣家の井にまとひ入れてみまかりぬ
その墓を庵のほとりに作りて
釈自圓とぞ改名しける
彼を祭ること
人を祭るに殊ならねば
このたび爪牙の罪をまぬがれて
変成男子の人果にいたらむとなり
その文に曰く
秋の蝉の露に忘れては
秋の花の霜に凍るも
鳥部山の四時に噪ぎ
馬嵬が原の一夜に衰ふ
きのふは錦茵に千金の娘たりしも
けふは墨染めの一重の尼となれり
されば
柏木の衛門の夢
虚堂和尚の詩
恋にまよふ
欄干に水ながれて
梅花の朧なる夜
貧にはぬすむ
障子に雨そそひて
燈火の幽かなる時
鼠は捕らえるべしとつくりて
褒美は杜工部
蛙は無用といましめて
異見は白蔵司
昔は女三の宮の中
牡丹簾にかがやきて
花まさにはやく
今は李四が庵の辺
天蓼垣にあれて
実すでにおそし
前世は誰が膝枕にちぎりてか
さらに傾城の身仕舞
後は世はかならず音楽にあそばむ
ともに菩薩の物数奇
玉の林の鳥も啼らむ
蓮の葉の花も降らし
涅槃の鐘の声冴えて
囲炉裏の眠りたちまちにおどろき
菩提の月の影晴れて
卒塔婆の心なににか疑はむ
如是畜生
南無阿弥
ついでに作者の示されてない『風俗文選』「書類」のフクロウの出てくる「院艶書」も近代的に表記してみた。
院の艶書
作者不詳
やまとの国に梟といふ鳥あり
鷽姫をこひて
文かきやる
ことにそもじはまこともじ
いくたびも文かよはして
まことの文字の返し見るまで
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