2017年8月13日日曜日

 昨日は南相馬の追悼復興花火を見に行った。小雨が降る肌寒い中の花火だった。とはいえ、雲霧に霞む花火もまた一興で、花火の前にはライブもあり、復興への熱いメッセージも聞け、遠くまで行っただけのことはあった。
 そういうわけで、今日は花火の発句を見てみよう。
 今でこそ花火は夏の風物と言われるが、本来は旧暦七月の初めで、秋の季語だった。
 松永貞徳の『俳諧御傘』には、「花火 正花を持也。春に非ず、秋の由也。夜分也。植物をきらはず。」とある。似せ物の花だが正花として扱われ、花の定座を飾ることができる。
 曲亭馬琴編の『増補 俳諧歳時記栞草』には、「花火 [和漢三才図会]烽燧(のろし)に代ふべきもの也。又夏月河辺の遊興とす。[御傘]正花を持也。」とある。「夏月河辺」だけど秋の所に記されている。
 烽燧が起源だという説は、今日でもウィキペディアに「花火の起源については諸説ある。一般的には花火のルーツは古代中国の狼煙(のろし)とされ、煙による通信手段であり、火薬の技術の発達とともに花火が誕生することとなった。」とあるとおりだ。
 そのウィキペディアによると、花火はヨーロッパで発達し、戦国時代には日本に伝来し、国産化され、一六一三年にはイギリス人のジョン・セーリスが国王ジェームズ一世の使者として駿府城を訪れた際、花火を見せたという。
 江戸時代初期の庶民の花火はおもちゃ花火で、しばしば禁止令が出ている。万治二年(一六五九)には両国橋が完成したときに、鍵屋弥兵衛が葦のくだの中に火薬を練って入れた玩具花火を売り出し、大型の打ち上げ花火への道を開いたとも言われている。ただ、後に名物になる両国川開きの花火は享保十八年(一七三三)からだとされている。
 とはいえ、それ以前にも花火の句は詠まれている。

   盆前後
 落る時川さへ匂ふ花火哉   岩翁(『伊達衣』)
 名を呼で買ん去年の花火売  亀翁(『伊達衣』)

 「盆前後」という前書きから、花火がお盆の迎え火送り火に結び付けられた側面もあったのだろう。それは今日の追悼復興花火にも通じる。川が匂うというのは、川まで花火の色に染まるという意味で、火薬の匂いではないだろう。
 「名を呼で」の句は、去年の花火がよかったからその花火売りの名を呼んでまた買おうということか。ひょっとしてそれは鍵屋弥兵衛さんか。

   両国橋
 人声を風の吹とる花火かな  凉菟(『皮籠摺』)
 扇的花火たてたる扈従かな  其角(『皮籠摺』)
 橋杭の股に見得たる花火哉  沾洲(『皮籠摺』)

 凉菟の句には「両国橋」と前書きがあるが、この頃はまだ両国橋は江戸っ子の花火遊びの場という意味で、川開きの花火ではなかった。花火が上がるとそれまでざわざわしていた橋の上が一瞬静かになったのだろう。
 其角の句の「扈従」は貴人に付き従う人のことで、多分鍵屋弥兵衛の売り出した初期の葦の管の花火はロケット花火のようなものだったのだろう。扇の的を花火で狙ってみて主君を面白がらせたか。
 沾洲の句は、橋杭の間から花火が見えるということか。

   華火
 鐘のねを聞デ散行花火哉   蓑笠(『庭竈集』)

 花火はあっという間に消えてゆくので、鐘の音を待つことはない。この頃から花火の楽しさだけでなく、その儚い美しさに関心が行くようになった。

 はかなさは槿のうへに花火哉 三語(『鵲尾冠』)
 賑ひの場でさび返る花火哉  芝響(『鵲尾冠』)

 「はかなさは」の句は、花火を槿の一日花に喩えている。「賑ひの」の句は、先の凉菟の句とかぶるが、花火の後というのは寂しいものだ。

   舟興
 壱両が花火間もなき光哉   其角(『五元集』)

 花火の中には高価なものの出てきたのか。それとも舟遊びが高かったのか。いずれにせよ花火のようにあっという間に消えてゆく。

 月白と雲にぬかりし花火かな 浪化(『続有磯海』)

 花火を上げてはみたが、月に白んだ明るい空だったり雲があったりするとその明るさが引き立たない。油断するなということ。
 昔は雲に隠れるほど高くは打ち上げなかっただろうから、これは単に雲の白さに花火が引き立たないという程度の意味だろう。
 今の打ち上げ花火は雨でもできるほど進歩している。ただ、雨雲が低いと雲の中で打ちあがり、雲に隠れてよく見えなかったりする。朧の光があたりの雲を白く染め、独特な色合いになる。それはそれでまた面白い。
 南相馬の追悼復興花火もあいにくの雨となってしまったが、それでも空の上の犠牲者の魂に、熱い思いは届けられたと思う。そしてそれは、避難して帰ってこれない人にも、僅かに残った人や戻ってきた人が復興の桜を植えたり復興の花火を打ち上げることで、いつでも帰って来いよというメッセージになる。
 心から「お帰りなさい」が言える日に向けて、被災地に花が溢れますように。花火もまた正花だから。

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