2023年1月15日日曜日

  昨日からどんより曇っていて雨が降ったりやんだりしている。気温も朝の冷え込みがなく、春めいてきている。

 労働価値説は基本的には一定時間働いている限り定数であり、生産性に影響されることがない。
 今のマルクス主義者が生産性という言葉を忌み嫌うのも、それを考えれば納得できる。
 生産性がどれだけ低下しようと、それによって労働の価値が下がることはない。だから同じように報酬が与えられるべきだということになる。
 生産性が低下すれば実際には確実に物が不足するわけだが、それは誰かが搾取しているからで、そいつを見つけ出して粛正しろということになる。
 また、この価値は通貨供給に左右されることもない。物が不足して物価が上がれば、その分通貨供給を増やせば良いということになる。
 国家は物が買えるようになるまで無制限に通貨供給を増やすことができる、というわけだ。もっとも、通貨が増えたから物が増えるわけではないが。
 逆に人口の増加はそれだけ総労働時間が増えることになるから、人口は増えれば増えるほど国家は潤うという理屈になる。少子化は国を貧しくする、国家の失政だ、と糾弾することになる。
 ここまで言えば、労働価値説のどこが問題かがわかるだろう。
 つまり労働時間は生産を保証しないということだ。生産物がなければ人は生きられないのに、労働時間はそれを保証しない。飢餓と粛清へまっしぐらだ。
 なら人の豊かさは何で決まるかというと、それは生産性だ。
 短時間の労働で効率よく生きてゆくのに必要な物資が手に入れば、それは裕福だと言って良いだろう。

 余談だが、今日のように労働市場がグローバル化すれば、たとえ国内が少子化で労働者が不足したとしても、まだ人口増加が続いてる国からいくらでも労働力の供給を受けられる。
 これが先進諸国の給与が伸び悩んでいる最大の原因だ。
 欧米は大量の移民を入れているから、数字の上では移民の給料が上がるので、給与水準が上がっているように見える。それはこれまで安くこき使ってた移民が元からいる国民のレベルに近づいただけで、元からいる国民が豊かになったわけではない。日本も実質的にはかなりの数の外国人労働者を受け入れている。
 もう一つは外国人労働者を現地で雇用するというもので、工場ごと海外に移転させるやり方だ。工場が移転すれば国内の雇用がその分減るから、国内労働力の過剰につながる。
 つまり、先進国がいくら少子化しても、世界全体の人口が増え続けている限り、その効果は限定的ということだ。人口増加地域の労働者が大量に流入するかそれを雇用するために工場が出て行くことが繰り返される限り、我々はまだ多産多死の時代を生きていることになる。基本的にこの問題の解決は地球全体の少子化によって地球全体の人口増加圧力がなくなるまで無理ということになる。

 ロシア自体はそれほど人口増加の圧力にさらされていないし、中国の人口も頭打ちになっているから、ウクライナ侵略は人口増加による古典的な戦争ではないし、中国の少数民族弾圧や香港・台湾の問題も人口増加によるものではない。
 ただ、人口増加の国々にわだかまる反西洋文明の動き、特にイスラム原理主義が顕著だが、こうした人たちの支持を得られ、国連を制することができるということが、暴挙への歯止めをなくしていると思われる。
 それに加えて、先進諸国のマルクス主義者の残党の支持も得られれば、西側諸国のウクライナや台湾への支援の大きな足かせになる。それだけでなく、西洋のキリスト教原理主義もイスラム原理主義と同様、かつての社会主義に取って代わろうとしている。プーチンもロシア正教会の支持を受けている。こうした人たちが侵略戦争を支持してくれるという戦略的な読みがある。
 明確な必然性がないから、ロシアや中国の国内世論が侵略戦争に熱狂しているわけではない。ただ独裁政治であるが故に反乱には至らないという、もう一つの戦略的な読みがある。実際には必然性がないという油断が虚を突かれる結果となった。戦争は必然性がなくても独裁者の意志があれば起こせる。
 基本的には全世界が十分な生産性向上を成し遂げ、少子化で人口増加圧から解放されるまで、資本主義への不満はくすぶり続け、それがマルクス主義やイスラム原理主義、キリスト原理主義と結びついて、生産性を無視した文明破壊で問題が解決できるかのような幻想を与え続けることになる。
 ウクライナ戦争はプーチン一人が起こしている戦争ではない。世界には何億人ものプーチンがいる。そのプーチンの条件はこうだ。

1,世界は一つになるべきだと思っている。
2,民主主義は衆愚政治であり、優秀な指導者による哲人独裁が必要だと思っている。
3,貧しくても幸せならいいと思っている。

 1は世界を一つにするための、いわば「世界征服」のための侵略戦争を容認する。また、グローバル経済が世界を一つにしているのをアメリカ世界侵略と認識していて、それに対抗するための侵略戦争は「良い侵略戦争」だという認識を生み出す。
 2は当然ながら独裁を肯定し、独裁者の判断一つで侵略戦争を起こせると考えている。
 3は経済を破壊しても構わないという思想を生み出す。人々が貧しくなり飢餓に陥ろうとも、1と2を貫く。
 こうした人たちは必ず侵略と独裁と飢餓を正当化する。
 この三つを唱える人は警戒するだけでなく断罪する必要がある。それは平和と民主主義を守るための戦いであり、世界が戦乱と飢餓で破滅するのを防ぐための戦いだ。
 ただ、その一方で我々は未だ多産多死のマルサス的状況から抜けられない人たちへの援助を惜しんではならない。
 彼らにいきなり先進国と同様の人権意識を押し付けるのではなく、まず経済成長を助けて、「衣食足りて人権を知る」を体験させなくてはならない。

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