2023年4月18日火曜日

 今日は小田原城の御感の藤を見に行った。富士はすっかり見頃になっていて、鳥よけのネットも外されていた。
 藤棚は他にも御茶壺曲輪と報徳二宮神社の裏にもあった。
 御茶壺曲輪の藤には鳩が二三羽集まって、富士の花をついばんでいたので、そのために鳥よけネットをしてたというのが分った。梅や桜はメジロやムクドリが寄ってくるが、藤は鳩が来る。
 近くの柳屋ベーカリーでアンパンを買い、その向かい側には南十字という本屋があった。その隣の箱根口ガレージ報徳広場に昔の小田原市電の車両が置いてあった。空色と黄色のウクライナカラーで、ウクライナを応援するメッセージが書かれていた。早く勝利して戦争を終わらせてほしいし、そのための協力を世界の国は惜しまないでほしい。鈴呂屋は平和に賛成します。

 それでは猿蓑の俳諧。ツイッター版の「梅若菜」の巻。

元禄4年1月、乙州江戸下向の時の餞別興行。

芭蕉「では乙州君の旅の無事を祈って。梅が咲いて若菜摘みをするこの時期に、丸子宿のとろろ汁が食えるとは羨ましいぞ。」

梅若菜まりこの宿のとろろ汁 芭蕉


元禄4年春、乙州餞別興行脇。
乙州「丸子宿のとろろ汁、食えると良いな。笠もこの日のために新調したし、行ってくるね。」

  梅若菜まりこの宿のとろろ汁
かさあたらしき春の曙 乙州


元禄4年春、乙州餞別興行第三。
珍碵「新しい笠。それは田植えの晴れ着の笠にできる。ここに雲雀を鳴かせて、土を運ぶ百姓を、と直に描かずに、頃なれやと匂わす。うん、完璧。

  かさあたらしき春の曙
雲雀なく小田に土持頃なれや 珍碵


元禄4年春、乙州餞別興行四句目。
素男「春だから何かお祝いっすね。しとぎを神様にお供えして、そのお下がりをみんなで食うってどうっすか。」

  雲雀なく小田に土持頃なれや
しとぎ祝ふて下されにけり 素男


元禄4年春、乙州餞別興行五句目。
乙州「せっかくのしとぎも歯が痛くて食えない。そんな奴一人くらいいてもおかしくないよね。」

  しとぎ祝ふて下されにけり
片隅に虫歯かかへて暮の月 乙州


元禄4年春、乙州餞別興行六句目。
芭蕉「せっかくのご馳走なのに、一人は虫歯で食べられず、その上二階の客帰ってしまう。悲しい夕暮れの月。」

  片隅に虫歯かかへて暮の月
二階の客はたたれたるあき 芭蕉

初裏

元禄4年春、乙州餞別興行七句目。
素男「いわゆる『鶉発ち』っすね。いつもさっさと帰っちゃう奴。鶉を放したみたいにすぐドロンする奴、いるよな。」

  二階の客はたたれたる秋
放やるうづらの跡は見えもせず 素男


元禄4年春、乙州餞別興行八句目。
珍碵「うむ。比喩にしたのを実景に取り成せってゆうんだな。良かろう。稲を秋風が、と秋は打越にあるから『力なき風』にして式目をかわす。」
  
  放やるうづらの跡は見えもせず
稲の葉延の力なきかぜ 珍碵


元禄4年春、乙州餞別興行九句目。
芭蕉「力なき風は何か不安な胸のうち騒ぐ感じがするな。なら発心して初めての旅の不安、西行法師の『鈴鹿山うき世をよそにふり捨てて』だな。」

  稲の葉延の力なきかぜ
ほつしんの初にこゆる鈴鹿山 芭蕉


元禄4年春、乙州餞別興行十句目。
乙州「発心したばかりだと、みんな法名を知らないから、知り合いに会ったら『内蔵頭(くらのかみ)じゃないか、出家したんか』って呼び止められる。」

  ほつしんの初にこゆる鈴鹿山
内蔵頭かと呼声はたれ 乙州


元禄4年春、乙州餞別興行十一句目。
珍碵「内蔵頭は武将にもよくある名だ。ううむ、これは合戦で敵に見知らぬ武将がいて、あれは誰だだな。関ヶ原合戦の東軍に着くかと見えて西軍に着いた小西行長の軍で箕の手形の陣形。これしかない。」

  内蔵頭かと呼声はたれ
卯の刻の箕手に並ぶ小西方 珍碵


元禄4年春、乙州餞別興行十二句目。
素男「うわっ、ここまで克明に設定されちまうと、展開できないっすよ。ありきたりな松の景色を付けて、ここは軽く流させてもらうっす。」

 卯の刻の箕手に並ぶ小西方
すみきる松のしづかなりけり 素男


元禄4年春、乙州餞別興行十三句目。
乙州「結局昨日は十二句目で終わってしまって、芭蕉さんも珍碵も今日はいない。京から去来と加生が来た。それにどうして姉貴が来てんの?まあいい。撰集抄の信濃佐野渡禅僧入滅之事の本説。」

  すみきる松のしづかなりけり
萩の礼すすきの礼によみなして 乙州


元禄4年春、乙州餞別興行十四句目。
智月「そう嫌な顔しないのよ。それにお義母さんと呼びなさい。松の木の下で成仏した老僧にお世話になったって礼をする、いい句ね。では萩の原っぱだからモズの一声の雀が逃げてくとしましょう。」

  萩の礼すすきの礼によみなして
雀かたよる百舌鳥の一声 智月


元禄4年春、乙州餞別興行十五句目。
凡兆「モズの一声はモズが射られたってことでいいよな。逃げる雀に『ああ、俺っていつまでこう殺生の仕事をするんだ』何て思うと、心まで寒くて、真如の月の下、懐で手を温める。」

  雀かたよる百舌鳥の一声
懐に手をあたたむる秋の月 凡兆


元禄4年春、乙州餞別興行十六句目。
乙州「あっ去来さんは花を持ってもらうので、先行きます。前句の懐に手を入れた人、狩人から漁師に転じておきましょう。海の景色で思い切って花に行ってね。」

  懐に手をあたたむる秋の月
汐さだまらぬ外の海づら 乙州


元禄4年春、乙州餞別興行十七句目。
去来「外海か。文禄の役かなあ。朝鮮って桜あったっけ。いやこれはまだ名護屋城で待機してるということでいいよね。」

  汐さだまらぬ外の海づら
鑓の柄に立すがりたる花のくれ 去来


元禄4年春、乙州餞別興行十八句目。
凡兆「よっしゃ。これは和漢朗詠集の桃李不言春幾暮、煙霞無跡昔誰栖だな。ただ昔の棲家の跡形もなしじゃ何だから、からし菜だな。ピリッと美味しいからし菜、食っちゃった跡にしよう。」

  鑓の柄に立すがりたる花のくれ
灰まきちらすからしなの跡 凡兆

二表

元禄4年春、乙州餞別興行十九句目。
正秀「ちょっくら乱入させてもらうぜ。ここは畑の灰が飛んできて迷惑しているお坊さんだ。写経しようとしたら灰が飛んできて紙の上がざらざらだ。ちょうど良い。休んで花見をするのも悪くない。」

  灰まきちらすからしなの跡
春の日に仕舞てかへる経机 正秀


元禄4年春、乙州餞別興行二十句目。
去来「何だったんだ、突然。ええと、これは和尚さんではなく小坊主にできそうだなあ。いつものお供の代わりで、修行の方も適当で、精進料理じゃ物足りなくてどこかへ食いに行くってとこかなあ。

  春の日に仕舞てかへる経机
店屋物くふ供の手が張り 去来


元禄4年春、乙州餞別興行二十一句目。
芭蕉「何だ京の連中は途中で放り出して、手替わり感覚で困ったな。続きは伊賀の連中に任せよう。」
半残「承知。手替わりを人と違うという意味に取り成して進ぜよう、」

  店屋物くふ供の手がはり
汗ぬぐひ端のしるしの紺の糸 半残


元禄4年春、乙州餞別興行二十二句目。
土芳「そういえば恋が出てないな。汗拭いは冷や汗たらたらでやってきた夜這い男にしよう。鶏が鳴いたからバレる前に慌てて帰ってゆく。まあ鶏のような奴だ。いろんな意味で。」

  汗ぬぐひ端のしるしの紺の糸
わかれせはしき鶏の下 土芳


元禄4年春、乙州餞別興行二十三句目。
半残「後朝でござるな。伊勢物語の陸奥の田舎女『きつにはめなでくだかけの(狐に食わすぞ糞にわとり)』にして進ぜよう。」

  わかれせはしき鶏の下
大胆におもひくづれぬ恋をして 半残


元禄4年春、乙州餞別興行二十四句目。
土芳「執着の強い恋か。濡れ落ち葉のようなもんだな。濡れた紙にしておこうか。ひっついて離れない。」

  大胆におもひくづれぬ恋をして
身はぬれ紙の取所なき 土芳


元禄4年春、乙州餞別興行二十五句目。
半残「貼り付けた紙が剥がれないんでござるな。なら小刀で削って進ぜよう。と言っても無骨な蛤刃の小刀ではうまく削れんな。」

  身はぬれ紙の取所なき
小刀の蛤刃なる細工ばこ 半残


元禄4年春、乙州餞別興行二十六句目。
園風「では拙者も一句。細工箱は小刀入れということにして、それを持ってきて正月の恵方棚を拵えるというのは如何か。」

  小刀の蛤刃なる細工ばこ
棚に火ともす大年の夜  園風


元禄4年春、乙州餞別興行二十七句目。
猿雖「では、源氏物語の須磨での年越しとして恋に行きましょうか。良清の朝臣が明石の入道の娘を思い出して手紙とか書いてましたが、け帰ってくるのは入道の手紙。」

  棚に火ともす大年の夜
ここもとはおもふ便も須磨の浦 猿雖


元禄4年春、乙州餞別興行二十八句目。
半残「須磨の浦でござるか。こういう漁村では昔ながらに肩衣を胸のところでビシッと合わせているでござる。」

  ここもとはおもふ便も須磨の浦
むね打合せ着たるかたぎぬ 半残


元禄4年春、乙州餞別興行二十九句目。
園風「古くて貧乏臭いものといえば、胸を塞いだ肩衣に壊れた扇子。今はみんな団扇を使うが、古い扇子の柄のところが壊れて縛ってあったりする。

  むね打合せ着たるかたぎぬ
此夏もかなめをくくる破扇 園風


元禄4年春、乙州餞別興行三十句目。
猿雖「うん。だったら魚醤やな。瀬戸内海の夏の油の乗ったイカナゴで作る魚醤を仕込む。あっそう言えば二の表の月をこぼすわけにはいかないんな。ぎりぎりだが月を出さないと。」

  此夏もかなめをくくる破扇
醤油ねさせてしばし月見る 猿雖

二裏

元禄4年春、乙州餞別興行三十一句目。
土芳「何か明石の貧乏ネタから抜け出せんな。人物を出して何とか展開してもらわないと。」

  醤油ねさせてしばし月見る
咳声の隣はちかき縁づたひ 土芳


元禄4年春、乙州餞別興行三十二句目。
園風「老人ですな。でしたら老夫婦で、長年連れ添ってきて、でも相変わらずクソ真面目な人やなあ、って如何かと。」

  咳声の隣はちかき縁づたひ
添へばそふほどこくめんな顔 園風


元禄4年春、乙州餞別興行三十三句目。
芭蕉「やめやめ。どうにも田舎臭くて、残りは京に行って何とかする。江戸から嵐蘭も来るというし。」
嵐蘭「よっしゃ。黒面な職人といえば会津漆器。」

  添へばそふほどこくめんな顔
形なき絵を習ひたる会津盆 嵐蘭


元禄4年春、乙州餞別興行三十四句目。
史邦「会津は寒い所と聞いてます。でしたら竹で作ったスケート靴で猪苗代湖をすーいすーいと、というのを言外にして、薄雪の割下駄としておきましょう。

  形なき絵を習ひたる会津盆
うす雪かかる竹の割下駄 史邦


元禄4年春、乙州餞別興行三十五句目。
野水「ども、野水です。では花の定座、光栄至極です。割下駄は八ツ割下駄てことにして、結局今年も旅に出ずに、自宅で花の季節を迎えたとしましょう。」

  うす雪かかる竹の割下駄
花に又ことしのつれも定らず 野水


元禄4年春、乙州餞別興行挙句。
羽紅「おとめちゃんでーす。さほちゃんはいつまでも姫のまんまで彼氏いないのかしら。奈良のさほ山をにしきにそめて、ことしも春風ふかせて、めだたく一巻おわりまーす。」

  花に又ことしのつれも定らず
雛の袂を染る春風 羽紅

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