2023年4月1日土曜日

 ツイッターで呟いた猿蓑の歌仙興行、鳶の羽もの巻。

元禄3年冬、歌仙興行発句。
芭蕉「去来、加生、あっここでは凡兆だっけ。それに史邦、今日はこの京の三人に、自分不肖芭蕉庵桃青が加わり、興行を始めようと思う。発句は去来だったね。」

去来「今日はちゃんと。」

鳶の羽も刷(かいつくろひ)ぬはつしぐれ 去来。


元禄3年冬、歌仙興行脇。
芭蕉「時雨が去って鳶も濡れた羽を掻い繕ってる。なるほど、そう来たか。だったらさっきまで吹いてた風も静まる、としよう。風が静まれば、ザワザワ音を立ててた落ち葉も静かになる。」

  鳶の羽も刷ぬはつしぐれ
一ふき風の木の葉しづまる 芭蕉


元禄3年冬、歌仙興行第三。
凡兆「発句が鳥類に降物、脇が植物かよ。冬は二句で終わりだから無季でもいいか。なら旅体でいったろ。風も静まったので川を渡る。それに取り囃しだ。川を渡るから股引きが濡れるなんてどや。」

  一ふき風の木の葉しづまる
股引の朝からぬるる川こえて 凡兆


元禄3年冬、歌仙興行四句目。
史邦「ならばそれがしは畑へ行く百姓ってことにしましょう。鋤や鍬では芸がありません。ここは一つ弓で害獣駆除としましょう。百姓が俄かに拵えた弓ということで、こんなふうに。」

  股引の朝からぬるる川こえて
たぬきををどす篠張の弓 史邦


元禄3年冬、歌仙興行五句目。
芭蕉「狸が出たか。だったら狸に化かされる話にしよう。森の中にやけに立派な屋敷があって、何か変だ。修験者がやって来て弓をブンブン鳴らすと、術が解けたか元の廃墟になる。」

  たぬきををどす篠張の弓
まいら戸を蔦這かかる宵の月 芭蕉


元禄3年冬、歌仙興行六句目。
去来「えーっと、山奥に住む粗末な庵で、どんな風流人かと思ったら、蜜柑に厳重な囲いをしてたり、徒然草にそんな話あったでしょ。あっ、元ネタと少し変えないとね。梨をケチるとか。」

  まいら戸に蔦這かかる宵の月
人にもくれず名物の梨 去来

初裏

元禄3年冬、歌仙興行七句目。
史邦「この『人にもくれず』は梨ではなく『人には目もくれず』と読めますね。でしたら取り成しといきましょう。ひたすら閉じ籠って絵を描いている隠士としましょう。」

  人にもくれず名物の梨
かきなぐる墨絵おかしく秋暮て 史邦


元禄3年冬、歌仙興行八句目。
凡兆「そんじゃさあ、その隠士の衣裳で今流行りのメリヤス足袋を履かせちゃおう。ありゃほんと良いよ。みんな履いてみなよ。」

  かきなぐる墨絵おかしく秋暮て
はきごころよきめりやすの足袋 凡兆


元禄3年冬、歌仙興行九句目。
去来「ああ、わかるわあ。メリヤスの足袋推しの奴。こういうの話し出したら止まらないんだよね。あっ凡ちゃんのことじゃないから。」

  はきごころよきめりやすの足袋
何事も無言の内はしずかなり 去来


元禄3年冬、歌仙興行十句目。
芭蕉「無言といえば無言行という修験の修行があったな。午の刻になって修行の終了を告げる法螺貝が鳴ると、急にざわつき始める。旅でたまたま通りかかって、これまで静かだったが、って展開しようか。」

  何事も無言の内はしづかなり
里見え初めて午の貝ふく 芭蕉


元禄3年冬、歌仙興行十一句目。
凡兆「法螺貝吹くというと、やっぱ修験者は動かせないな。だったら修験者の位で修験者あるあるを付けりゃいいのか。外で茣蓙引いて寝てるうちに茣蓙が駄目になって里に降りて来る」

  里見え初めて午の貝ふく
ほつれたる去年のねござしたたるく 凡兆


元禄3年冬、歌仙興行十二句目。
史邦「茣蓙が駄目になるのでしたら、駄目つながりで、蓮の花でも散らしておきましょう。蓮が散るだといかにも諸行無常な感じになりすぎるので、あえて別名の芙蓉にしておきましょう。」

  ほつれたる去年のねござしたたるく
芙蓉のはなのはらはらとちる 史邦


元禄3年冬、歌仙興行十三句目。
芭蕉「蓮の花が散るんだったらお寺かな。肥後の水前寺は昔はお寺があったが今は庭園になっていて、水前寺茶屋で出す水前寺海苔の吸い物ってのを一度食べてみたいな。いつか九州行脚もしたいな。」

  芙蓉のはなのはらはらとちる
吸物は先出来されしすいぜんじ 芭蕉


元禄3年冬、歌仙興行十四句目。
去来「『出来(でか)され』というのは悪い方の意味もあるから、取りなせば良いかなあ。吸物を食いに行くと主人が言い出して、三里の道を歩かされるとか。」

  吸物は先出来されしすいぜんじ
三里あまりの道かかえける 去来


元禄3年冬、歌仙興行十五句目。
史邦「三里の道を何かのために行くということですね。何か好事家や風流人って感じでしょうね。茶道でしょうか。唐の時代の盧同とか、それに仕える人とか。」

  三里あまりの道かかえける
この春も盧同が男居なりにて 史邦


元禄3年冬、歌仙興行十六句目。
凡兆「『盧同が男』ってっから弟子ってことでいいよな。で、春の句だからこの辺で朧月へ行かないとな。次が花の定座だし。弟子で植物(うゑもの)と言ったら挿し木か。弟子を挿し木に喩える。」

  この春も盧同が男居なりにて
さし木つきたる月の朧夜 凡兆


元禄3年冬、歌仙興行十七句目。
芭蕉「花の定座だから、挿し木は桜の挿し木しかないよね。桜の挿し木は例えば手水鉢に苔を入れて、そこに挿しておいて、それを並べるとか、それぐらいかな。」

  さし木つきたる月の朧夜
苔ながら花に並ぶる手水鉢 芭蕉


元禄3年冬、歌仙興行十八句目。
去来「桜の花の手水鉢、まあ庭とかない街での暮らしで癒されたりとか、そんなところかなあ。イライラしてたのが直るとか。」

  苔ながら花に並ぶる手水鉢
ひとり直し今朝の腹だち 去来

二表

元禄3年冬、歌仙興行十九句目。
凡兆「イライラしてんなら、食やいいだろっ。しっかりうまいもん食って、腹がいっぱいになれば全部忘れるってもんよ。おらあいつもそうしてる。」

  ひとり直し今朝の腹だち
いちどきに二日の物も喰て置 凡兆


元禄3年冬、歌仙興行二十句目。
史邦「さすが猪早太さん。食う時も猪突猛進ってわけですね。まるで冬眠前の熊ですね。ああそうか、そう付ければいいんだ。さすがに熊ではなく、食料の安定しない島の漁師にしますが。」

  いちどきに二日の物も喰て置
雪けにさむき島の北風 史邦


元禄3年冬、歌仙興行二十一句目。
去来「北風吹きすさぶ離島といえば灯台守。雨の日も風の日も雪の日も灯りを灯し続ける。大変だなあ。」

  雪けにさむき島の北風
火ともしに暮れば登る峰の寺 去来


元禄3年冬、歌仙興行二十二句目。
芭蕉「取り成しは難しいから、季節を冬から夏に転じて、島ではなく普通に山奥にして大きく展開したい所だな。夏の山奥というとホトトギスだが、普通に鳴いてもつまらない。」

  火ともしに暮れば登る峰の寺
ほととぎす皆鳴仕舞たり 芭蕉


元禄3年冬、歌仙興行二十三句目。
史邦「『皆鳴仕舞』は季節が変わった、時が流れたと出来そうですね。ただまだ残暑厳しいとなると夏痩せした体もそのままで、それじゃまだ弱いか。でしたら病気で寝込んでたことにしましょう。」

  ほととぎす皆鳴仕舞たり
痩骨のまだ起直る力なき 史邦


元禄3年冬、歌仙興行二十四句目。
凡兆「病人かよ。だったらお見舞いか。そろそろ恋を出さなくちゃな。光源氏って乳母の病期見舞いの時に夕顔と知り合ったよな。牛車で見舞いに来て、元ネタと少し変える。恋の言葉が入んないから恋呼び出し。」

  痩骨のまだ起直る力なき
隣をかりて車引こむ 凡兆


元禄3年冬、歌仙興行二十五句目。
芭蕉「隣に車を引き込ませて、そこからこちらへというと、門を開けてやらないということかな。隣との塀を越えて入らせる、それはないな。トゲトゲの木の間をくぐらせろ。」

  隣をかりて車引こむ
うき人を枳穀垣よりくぐらせん 芭蕉


元禄3年冬、歌仙興行二十六句目。
去来「憂き人は恋でなくてもいいかな。犯罪者をかくまうとか、合戦の落人とか、だったら刀を持たせればいいかなあ。」

  うき人を枳穀垣よりくぐらせん
いまや別の刀さしだす 去来


元禄3年冬、歌仙興行二十七句目。
凡兆「合戦に破れて運命を共にするのではなく、刀を差し出して逃げろってゆうんだろ。そりゃまだ子供か女だな。木曾義仲と巴御前の別れみたいな。髪を下ろして村人に見えるようにして。」

  いまや別の刀さしだす
せはしげに櫛でかしらをかきちらし 凡兆


元禄3年冬、歌仙興行二十八句目。
史邦「前句は狂乱物に見えなくもないですね。恋心を断とうとして死ぬほど悶え苦しむ。芝居仕立てだとわかるように『見よ』としておきましょう。」

  せはしげに櫛でかしらをかきちらし
おもひ切たる死ぐるひ見よ 史邦


元禄3年冬、歌仙興行二十九句目。
去来「月の定座で恋か。ここはさらっと後朝の情景にして逃げておこう。ただ朝ぼらけ有明の月ではありきたりだから、何かあまり使わない言葉を‥、青天がいいか。」

  おもひ切たる死ぐるひ見よ
青天に有明月の朝ぼらけ 去来


元禄3年冬、歌仙興行三十句目。
芭蕉「夜明けの青みを帯びた空に有明の月。普通に名所の景色とか付けて良さそうだな。近頃は木曽塚が拠点になってるから、そこから見える琵琶湖と比良の山、朝だから初霜。おっと、秋にしないと。」

  青天に有明月の朝ぼらけ
湖水に秋の比良のはつ霜 芭蕉

二裏

元禄3年冬、歌仙興行三十一句目。
史邦「秋の初霜を生かしたいですね。蕎麦は霜に弱いそうで、澄恵僧都の隣の畑の蕎麦が全部盗まれて歌を詠んだという話がありますが、きっと霜で枯れたのを盗まれたことにしたんでしょうね。」

  湖水に秋の比良のはつ霜
柴の戸や蕎麦ぬすまれて歌をよむ 史邦


元禄3年冬、歌仙興行三十二句目。
凡兆「蕎麦盗まれてじゃあ晩秋から冬は動かせない。軽く冬の季節を付けて流しておくか。もう終わりが近いし。だったら綿入れの布子。打越の霜が朝だから夕暮れに転じる。」

  柴の戸や蕎麦ぬすまれて歌をよむ
ぬのこ着習ふ風の夕ぐれ 凡兆


元禄3年冬、歌仙興行三十三句目。
芭蕉「『着習ふ』だったら旅を続けてようやく慣れてきたとして、旅体にできるな。安い宿で来る者拒まずで、詰め込むだけ詰め込んで雑魚寝させる。」

  ぬのこ着習ふ風の夕ぐれ
押合て寝ては又立つかりまくら 芭蕉


元禄3年冬、歌仙興行三十四句目。
去来「寝てはまた発つんだから夜明けかなあ。ここで有明も青天も使っちゃったからなあ。朝焼けにしようか。たたらの煮えたぎった鉄のような真っ赤な朝焼けってのはどうかなあ。」

  押合て寝ては又立つかりまくら
たたらの雲のまだ赤き空 去来


元禄3年冬、歌仙興行三十五句目。
凡兆「さあ花の定座だ。ここはたたらが見た赤い空に桜が見えるってとこだな。たたらが一心不乱に何かを作って、気付くと日も暮れて、夕日に染まった雲のような桜が見える。馬の鞦(しりがい)を作ってて。」

  たたらの雲のまだ赤き空
一構鞦つくる窓のはな 凡兆


元禄3年冬、歌仙興行挙句。
史邦「ではここは景色を付けて終わらせましょう。窓の外には桜だけでなく、他の木も見えて、ああいいこと思いつきました。枇杷にしましょう。枇杷はお灸に使いますので、疲れたたたらに丁度良いでしょう。」

  一構鞦つくる窓のはな
枇杷の古葉に木芽もえたつ 史邦

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