2023年4月10日月曜日

 
 千村の八重桜は観賞用ではなく、昔から花を塩漬けにして食用にするためのもので、桜茶は婚礼にも用いる目出度いもので、その他にも菓子やあんぱんにも用いる。
 そのため、満開になる前に摘み取りが始まる。
 今日も千村で長い脚立を立てて八重桜の花を収穫する姿が見られたし、四十八瀬川沿いを散歩したら、川沿いの堀西でも八重桜があちこちで咲いていて、収穫する風景が見られた。
 観賞用でないから、木も高くせず、満開の姿を見ることはないが、それでもこの里は所々濃い桜色に染まって美しい。

それではツイッター版の「灰汁桶の」の巻。

元禄3年秋、歌仙興行発句。
芭蕉「では加生君、発句行ってみようか。」
凡兆「凡兆だってーの。今日は木曽塚での興行だけど、特にこの場所に因まなくても良かったんだよね。」

灰汁桶の雫やみけりきりぎりす 凡兆


元禄3年秋、歌仙興行脇。
芭蕉「藍染屋かな。被差別民の。染色に用いる灰汁がポタポタ音を立てて、それにコオロギの声は侘しい。行燈の油がなくなって早く寝ちゃったかな。」

  灰汁桶の雫やみけりきりぎりす
あぶらかすりて宵寝する秋 芭蕉


元禄3年秋、歌仙興行第三。
野水「ども、野水です。名古屋から来ました。早速ですが、句の方行かせて頂きますが、新居への引越しとしましょうか。新しい畳を月が照らして、良いですなあ。」

  あぶらかすりて宵寝する秋
新畳敷ならしたる月かげに 野水


元禄3年秋、歌仙興行四句目。
去来「打越が宵寝だから、ここは普通に月見の宴でいいよねえ。だったら十人くらい迎えたちょっと賑やかな宴会にしようかな。それを盃の数だけで匂わして。」

  新畳敷ならしたる月かげに
ならべて嬉し十のさかづき 去来


元禄3年秋、歌仙興行五句目。
芭蕉「『並べて』を単に盃を並べるんでなく、十人みんな目出度く並べてとできるから、正月だな。子日にしようか。」

  ならべて嬉し十のさかづき
千代経べき物を様々子日して 芭蕉


元禄3年秋、歌仙興行六句目。
凡兆「子日かあ。古今集の『雪のうちに春はきにけり』に西行法師の『子の日しに‥はつ鶯の』の歌でここは流しておこうか。春の雪だからだびら雪。」

  千代経べき物を様々子日して
鶯の音にだびら雪降る 凡兆

初裏

元禄3年秋、歌仙興行七句目。
去来「鶯の声を聞いて春が来たんだと勇んで出かけたら雪に降られたなんてトホホだなあ。そうか、トホホ繋がりで展開すれば良いのか。馬に乗って出かけたら、発情期で馬が言うこと聞かないとか。」

  鶯の音にだびら雪降る
乗出して肱に余る春の駒 去来


元禄3年秋、歌仙興行八句目。
野水「前句を馬に乗り慣れてない平家武者としましょうか。ただ物語の本説にはせずにここは軽く面影で行きましょう。何となく生田の森、麻耶山に風雲急を告げという感じで。」

  乗出して肱に余る春の駒
麻耶が高根に雲のかかれる 野水


元禄3年秋、歌仙興行九句目。
凡兆「生田の森の方といえばイカナゴの釘煮が美味いよな。カマスゴ、イカナゴ、夕飯に酒でも飲みながらくうっ、なんてね。」

  麻耶が高根に雲のかかれる
ゆふめしにかますご喰へば風薫 凡兆


元禄3年秋、歌仙興行十句目。
芭蕉「カマスゴを食う人の位で付けてみようか。あまり位は高くないな。農夫でヒルに食われて、それを掻いてると気持ち良くて『くうっ』て。苦痛がなくなるんじゃなくて、ただ誤魔化してるだけ。」

  ゆふめしにかますご喰へば風薫
蛭の口処をかきて気味よき 芭蕉


元禄3年秋、歌仙興行十一句目。
野水「ここらで恋に行きましょうか。蛭の口処を比喩として、遊女が嫌な客に絡まれたのを蛭に噛まれたようなもんだとして、今日は休んで傷を癒そうか、とそんなのいかがですか。」

  蛭の口処をかきて気味よき
ものおもひけふは忘れて休む日に 野水


元禄3年秋、歌仙興行十二句目。
去来「『休む日に』や休みの日だというのに、という意味に取り成せるなあ。謡曲熊野みたいに、急に殿からの呼び出しがかかって困った、って感じでどうかなあ。」

  ものおもひけふは忘れて休む日に
迎せはしき殿よりのふみ 去来


元禄3年秋、歌仙興行十三句目。
芭蕉「殿から急に呼ばれるんだったら、大名に仕える年長の家老、金鍔。藩の実力者で、何かあったらすぐに殿に呼び出される。これだろう。」

  迎せはしき殿よりのふみ
金鍔と人によばるる身のやすさ 芭蕉


元禄3年秋、歌仙興行十四句目。
凡兆「本物の金鍔もいいが、そこら辺の成金商人の偽金鍔もいるからな。わざわざ家に水風呂作ったりして、また年寄りってのは熱い風呂が好きなんだ。」

  金鍔と人によばるる身のやすさ
あつ風呂ずきの宵々の月 凡兆


元禄3年秋、歌仙興行十五句目。
去来「分不相応な贅沢をするとろくなことはないよねえ。どうせ風呂だけでなく、朝は遅くまで寝てて、酒ばかり飲んで、それで身上潰すもんだ。」

  あつ風呂ずきの宵々の月
町内の秋も更行明やしき 去来


元禄3年秋、歌仙興行十六句目。
野水「空き屋敷ってまあ破産もあるけど、主人が亡くなって跡継ぎもなくてってこともありますわな。諸行無常。露の世の中。花に転じなくてはいけないから軽くね。」

  町内の秋も更行明やしき
何を見るにも露ばかり也 野水


元禄3年秋、歌仙興行十七句目。
芭蕉「ここは別に凡ちゃんでもいいんだけど、それに花前でそんなに気を使われてもね。どんな句でも花に持ってく自信はあるけど、お膳立てされると却って平凡になってしまうもんでね。

  何を見るにも露ばかり也
花とちる身は西念が衣着て 芭蕉


元禄3年秋、歌仙興行十八句目。
凡兆「西念さん、どういうお坊さんか知らないけど、京の坊主なら酢茎菜食うに決まってる。ただ酢茎菜食っても面白くないから、旅をして木曽でスンキという似たような物を食う、ってところかな。」

  花とちる身は西念が衣着て
木曽の酢茎に春もくれつつ 凡兆

二表

元禄3年秋、歌仙興行十九句目。
野水「木曽の春も終わる頃というと、四十雀の群れが移動して、あまり見なくなる頃かな。」

  木曽の酢茎に春もくれつつ
かへるやら山陰伝ふ四十から 野水


元禄3年秋、歌仙興行二十句目。
去来「難しいなあ。山陰から山深い里で居所でもつけておこうかなあ。春も終わりだと藁が不足していて、柴で仮に屋根を葺いておくってのはどうかなあ。」

  かへるやら山陰伝ふ四十から
柴さす家のむねをからげる 去来


元禄3年秋、歌仙興行二十一句目。
凡兆「『からぐ』だろっ。風に煽られて屋根が捲れ上がるという意味に取り成せるな。冬に転じて、冷たい北風にしよう。」

  柴さす家のむねをからげる
冬空のあれに成たる北颪 凡兆


元禄3年秋、歌仙興行二十二句目。
芭蕉「ちょっと詰まってきちゃったかな。景色を離れて旅の一場面にしたいね。外は木枯らしで不安な夜はと、宿の主人の心遣いで枕元に有明行燈を置いてゆく。」

  冬空のあれに成たる北颪
旅の馳走に有明しをく 芭蕉


元禄3年秋、歌仙興行二十三句目。
去来「旅の馳走は、街道の娼婦の、とも取れそうだ。そうだ、枕草子に生昌という男が女房の部屋に夜這いをかけたら灯台が煌々と灯ってて、しっかり顔見られてってあったな。それを男女逆にして。」

  旅の馳走に有明しをく
すさまじき女の智恵もはかなくて 去来


元禄3年秋、歌仙興行二十四句目。
野水「ここは夜這いからひとまず離れて、女がいろいろ知恵を尽くして男を引き留めようとしたけどってことで、尾花が下の思い草も虚しく、すさまじきは狼の声ってことにしましょう。」

  すさまじき女の智恵もはかなくて
何おもひ草狼のなく 野水


元禄3年秋、歌仙興行二十五句目。
芭蕉「思い草はススキの根に生える、あの煙管に似た花だったね。ススキだったらお墓、それも古い御廟かな。秋が三句目になるので月を出しておこう。」

  何おもひ草狼のなく
夕月夜岡の萱ねの御廟守る 芭蕉


元禄3年秋、歌仙興行二十六句目。
凡兆「すっかり忘れ去られたような御廟だったら、そこの古井戸なんかもすっかり赤く濁ってたりしてね。」

  夕月夜岡の萱ねの御廟守る
人もわすれしあかそぶの水 凡兆


元禄3年秋、歌仙興行二十七句目。
野水「赤く濁った水ですか。血の川だったり何か怪談のネタになりそうですね。物語をする嘘説きが何か自慢げに語ってそうですね。」

  人もわすれしあかそぶの水
うそつきに自慢いはせて遊ぶらん 野水


元禄3年秋、歌仙興行二十八句目。
去来「自慢するというと、なれ鮨の塩加減だとかなれ具合だとか、いろいろ講釈する人っているよねえ。人それぞれこだわりがあったりして。」

  うそつきに自慢いはせて遊ぶらん
又も大事の鮓を取出す 去来


元禄3年秋、歌仙興行二十九句目。
凡兆「でもなれ鮨って美味いよな。弁当なんかに最高だしよう。旅の途中、堤の眺めの良い道で田んぼが広がってて、そんなところで食いてえな。」

  又も大事の鮓を取出す
堤より田の青やぎていさぎよき 凡兆


元禄3年秋、歌仙興行三十句目。
芭蕉「凡ちゃんは本当食いしん坊でうっかり○兵衛だな。いや、そんな人知らん、何を言ってるんだ。川辺で稲が青々としてると言えば、端午の節句の頃の上賀茂下賀茂のお祭りだな。」

  堤より田の青やぎていさぎよき
加茂のやしろは能き社なり 芭蕉

二裏

元禄3年秋、歌仙興行三十一句目。
去来「これを露天商の口上にしちゃっていいかなあ。神社の前には物売りがたくさんいるしい。」

  加茂のやしろは能き社なり
物うりの尻声高く名乗りすて 去来


元禄3年秋、歌仙興行三十二句目。
野水「物を売る時の声に限らず、行商人が宿に着いた時も名乗りをあげますね。でもそれだけでは‥、宗祇法師の「世にふるもさらに時雨の宿り哉」の俤にして、発心するとかできそうですね。」

 物うりの尻声高く名乗りすて
雨のやどりの無常迅速 野水


元禄3年秋、歌仙興行三十三句目。
芭蕉「ここは迎え付けにしておきたいな。何も動じない人がいて、それはかつて雨宿りで悟ったからってとこかな。動じないというと、青鷺河岸でずっと動かずに立ってたりする。」

 雨のやどりの無常迅速
昼ねぶる青鷺の身のやふとさよ 芭蕉


元禄3年秋、歌仙興行三十四句目。
凡兆「青鷺というと水辺への展開が自然だな。花前だから苗代に水を引き入れてって、それだと花呼び出しが露骨すぎるか。なら藺草の田んぼにしよう。」

  昼ねぶる青鷺の身のたふとさよ
しょろしょろ水に藺のそよぐらん 凡兆


元禄3年秋、歌仙興行三十五句目。
去来「藺草は収穫間近で、その頃には桜が満開になるよねえ。だけど苗代でなく藺草にしたから、桜も何か変化させたいな。師匠、ここは花の定座だけど、桜にして良いですか?

  しょろしょろ水に藺のそよぐらん
糸桜腹いっぱいに咲にけり 去来


元禄3年秋、歌仙興行挙句。
野水「何とも我儘なことですね。でも蕉翁が許すならそれもありですな。まあ、挙句は特に何事もなく春の曙にしておきましょう。」

  糸桜腹いっぱいに咲きにけり
春は三月曙の空 野水

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