葛(くず)は秋の七草の一つで、和歌にも俳諧にも詠まれてきたが、その多くは葛の葉を詠んだもので、葛の花は珍しい。桃隣編の『陸奥鵆(むつちどり)』の桃隣が芭蕉の『奥の細道』の跡をたどった「舞都遅登理」の中に見つけた。
山路吟
おそろしき谷を隠すか葛の花 桃隣
焼飯に青山椒を力かな 同
尿前(しとまえ)の関のあたりでの句か。鳴子温泉の近くだ。今の鳴子温泉の駅のあるあたりは谷間とはいえ広々としているが、そこから新庄の方へ抜けようとすると、鳴子峡という険しい山間の道になる。今では紅葉の名所になっている。
さっきまで葛の咲いている原っぱだと思っていたら、急に険しい谷間の道に出たので、「おそろしき谷を隠すか」と詠んだのだろう。
焼飯は今日のチャーハンとは違うようだ。兵糧や非常食にも用いられたらしいが、どのようなものかはよくわからない。焼きおにぎりかきりたんぽに近いものか、携帯のできるものであろう。青山椒でスパイシーに味付けして食べたようだ。
葛の葉を詠むのは、
嵐吹く真葛が原に啼く鹿は
うらみてのみや妻を恋ふらん
俊恵法師
わが恋は松を時雨の染めかねて
真葛が原に風騒ぐなり
前大僧正慈円
といった古歌によるもので、葛が風に裏返る様を、裏を見せる=恨みと掛けて用いるのを本意とする。
葛の葉の面見せけり今朝の霜 芭蕉
の句は、芭蕉に一度は反旗を翻していた嵐雪が頭下げて芭蕉の元に戻ってきたときの句で、秋風に翻って裏を見せていた葛の葉も、今朝は霜が下りて葛の葉がしおれて翻らなくなったという意味。
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