また台風が近づいている。秦野たばこ祭の最終日には通り過ぎてくれるといいが。見るのは初めてだし。
それでは「道くだり」の巻の続き。
十三句目。
分にならるる嫁の仕合
はんなりと細工に染まる紅うこん 桃隣
紅うこんはコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「紅鬱金」の解説」に、
「〘名〙 紅色がかった濃い黄色。
※邇言便蒙抄(1682)臍「紅鬱金(ベニウコン)」
とある。西鶴の『好色一代男』に紅うこんのきぬ物が登場する。前句の嫁の幸せを受けて、流行の立派な着物を優雅に着こなす幸せとする。
十四句目。
はんなりと細工に染まる紅うこん
槍持ばかりもどる夕月 野坡
前句の紅鬱金を夕月の色とする。主君は月見の宴に御呼ばれして、槍持ちは家に帰される。
十五句目。
槍持ばかりもどる夕月
時ならず念仏きこゆる盆の内 利牛
奉公に出て槍持ちになっていた奴(やっこ)たちが帰郷して、急に念仏を唱え始める。髭など蓄え厳ついなりをしていても信心深い。
十六句目。
時ならず念仏きこゆる盆の内
鴫まつ黒にきてあそぶ也 桃隣
今日は殺生を行わないというので鴫が集まって遊んでいる。小鳥遊が「鷹なし」なら「鴫遊は‥‥。
十七句目。
鴫まつ黒にきてあそぶ也
人の物負ねば楽な花ごころ 野坡
水辺に庵を構える隠士とする。人のお世話にならずに気楽に暮らせば、あの水辺で遊ぶ鴫を詠めながら花のような心もちになれる。
秋から春への季移りで、比喩としての「花ごころ」を用いる。
十八句目。
人の物負ねば楽な花ごころ
もはや弥生も十五日たつ 利牛
何もすることのない、花を見るだけの春ということで、時間を忘れて気付けば弥生も半分すぎている。
二表、十九句目。
もはや弥生も十五日たつ
より平の機に火桶はとり置て 桃隣
「より平」は撚糸・平糸で、撚ってある糸と撚ってない糸。『芭蕉七部集』の中村注に、
「春湖曰、より糸平糸を以て織りたるをより平地といふ。そのより平地を織る箴也。東近江辺にてこの箴ありとぞ。(或注)」
とある。近江ちぢみのことか。
とり置はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「取置」の解説」に、
「① 物などをしまっておく。とっておく。手もとにおく。
※万葉(8C後)一一・二三五六「狛錦紐の片へぞ床に落ちにける 明日の夜し来なむと云はば取置(とりおき)て待たむ」
※堤中納言(11C中‐13C頃)貝あはせ「それかくさせ給へと言へば、塗り籠めたる所に、みなとりおきつれば」
② とりかたづけする。かたづける。始末をする。
※落窪(10C後)一「帯刀、御ゆするの調度などとりおきて」
③ 死骸をとりかたづける。葬る。埋葬する。
※羅葡日辞書(1595)「Pollinctura〈略〉シガイニ ユヲ アビセ toriuoqu(トリヲク) コトヲ ユウ」
※浮世草子・本朝桜陰比事(1689)二「いそぎ死人を取をけと仰付させられ」
④ とって他におく。ひっこめる。やめる。
※史記抄(1477)七「大に驚て先づ攻めごとをとりをいて、与呂将軍倶に東するぞ」
とある。寒い地方の機織でも弥生の十五日ともなれば、火桶は片付けられてゆく。
二十句目。
より平の機に火桶はとり置て
むかひの小言だれも見廻ず 野坡
向かいの家で「火鉢がない」と文句を言ってる声が聞こえてくるが、いつものことなので誰も相手にしない。
二十一句目。
むかひの小言だれも見廻ず
買込だ米で身体たたまるる 利牛
「身体たたまる」は身代畳まるで、コトバンクの「精選版 日本国語大辞典「身代畳む」の解説に、
「全財産をなくす。破産する。
※浮世草子・西鶴織留(1694)一「近年、町人身体(シンダイ)たたみ分散にあへるは、色好・買置此二つなり」
とある。
元禄期は米の高騰があって、それを見越して買い占めたのだろう。ただ、今でいうペーパー商法(現物まがい商法)に騙されたか。周囲の人もそりゃ騙されるのが悪いと冷ややかだ。
二十二句目。
買込だ米で身体たたまるる
帰るけしきか燕ざはつく 桃隣
破産した家は燕も寄り付かない。
二十三句目。
帰るけしきか燕ざはつく
此度の薬はききし秋の露 野坡
秋には露となって消えると思っていたが、薬が効いて無事に生き延び、燕の帰るのを見送ることができた。
二十四句目。
此度の薬はききし秋の露
杉の木末に月かたぐ也 利牛
今夜が峠だと思っていたが、無事に薬が効いて、月の傾くのを見る。
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