2022年9月23日金曜日

 また台風が近づいている。秦野たばこ祭の最終日には通り過ぎてくれるといいが。見るのは初めてだし。

 それでは「道くだり」の巻の続き。

 十三句目。

   分にならるる嫁の仕合
 はんなりと細工に染まる紅うこん 桃隣

 紅うこんはコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「紅鬱金」の解説」に、

 「〘名〙 紅色がかった濃い黄色。
  ※邇言便蒙抄(1682)臍「紅鬱金(ベニウコン)」

とある。西鶴の『好色一代男』に紅うこんのきぬ物が登場する。前句の嫁の幸せを受けて、流行の立派な着物を優雅に着こなす幸せとする。
 十四句目。

   はんなりと細工に染まる紅うこん
 槍持ばかりもどる夕月      野坡

 前句の紅鬱金を夕月の色とする。主君は月見の宴に御呼ばれして、槍持ちは家に帰される。
 十五句目。

   槍持ばかりもどる夕月
 時ならず念仏きこゆる盆の内   利牛

 奉公に出て槍持ちになっていた奴(やっこ)たちが帰郷して、急に念仏を唱え始める。髭など蓄え厳ついなりをしていても信心深い。
 十六句目。

   時ならず念仏きこゆる盆の内
 鴫まつ黒にきてあそぶ也     桃隣

 今日は殺生を行わないというので鴫が集まって遊んでいる。小鳥遊が「鷹なし」なら「鴫遊は‥‥。
 十七句目。

   鴫まつ黒にきてあそぶ也
 人の物負ねば楽な花ごころ    野坡

 水辺に庵を構える隠士とする。人のお世話にならずに気楽に暮らせば、あの水辺で遊ぶ鴫を詠めながら花のような心もちになれる。
 秋から春への季移りで、比喩としての「花ごころ」を用いる。
 十八句目。

   人の物負ねば楽な花ごころ
 もはや弥生も十五日たつ     利牛

 何もすることのない、花を見るだけの春ということで、時間を忘れて気付けば弥生も半分すぎている。
 二表、十九句目。

   もはや弥生も十五日たつ
 より平の機に火桶はとり置て   桃隣

 「より平」は撚糸・平糸で、撚ってある糸と撚ってない糸。『芭蕉七部集』の中村注に、

 「春湖曰、より糸平糸を以て織りたるをより平地といふ。そのより平地を織る箴也。東近江辺にてこの箴ありとぞ。(或注)」

とある。近江ちぢみのことか。
 とり置はコトバンクの「精選版 日本国語大辞典「取置」の解説」に、

 「① 物などをしまっておく。とっておく。手もとにおく。
  ※万葉(8C後)一一・二三五六「狛錦紐の片へぞ床に落ちにける 明日の夜し来なむと云はば取置(とりおき)て待たむ」
  ※堤中納言(11C中‐13C頃)貝あはせ「それかくさせ給へと言へば、塗り籠めたる所に、みなとりおきつれば」
  ② とりかたづけする。かたづける。始末をする。
  ※落窪(10C後)一「帯刀、御ゆするの調度などとりおきて」
  ③ 死骸をとりかたづける。葬る。埋葬する。
  ※羅葡日辞書(1595)「Pollinctura〈略〉シガイニ ユヲ アビセ toriuoqu(トリヲク) コトヲ ユウ」
  ※浮世草子・本朝桜陰比事(1689)二「いそぎ死人を取をけと仰付させられ」
  ④ とって他におく。ひっこめる。やめる。
  ※史記抄(1477)七「大に驚て先づ攻めごとをとりをいて、与呂将軍倶に東するぞ」

とある。寒い地方の機織でも弥生の十五日ともなれば、火桶は片付けられてゆく。
 二十句目。

   より平の機に火桶はとり置て
 むかひの小言だれも見廻ず    野坡

 向かいの家で「火鉢がない」と文句を言ってる声が聞こえてくるが、いつものことなので誰も相手にしない。
 二十一句目。

   むかひの小言だれも見廻ず
 買込だ米で身体たたまるる    利牛

 「身体たたまる」は身代畳まるで、コトバンクの「精選版 日本国語大辞典「身代畳む」の解説に、

 「全財産をなくす。破産する。
  ※浮世草子・西鶴織留(1694)一「近年、町人身体(シンダイ)たたみ分散にあへるは、色好・買置此二つなり」

とある。
 元禄期は米の高騰があって、それを見越して買い占めたのだろう。ただ、今でいうペーパー商法(現物まがい商法)に騙されたか。周囲の人もそりゃ騙されるのが悪いと冷ややかだ。
 二十二句目。

   買込だ米で身体たたまるる
 帰るけしきか燕ざはつく     桃隣

 破産した家は燕も寄り付かない。
 二十三句目。

   帰るけしきか燕ざはつく
 此度の薬はききし秋の露     野坡

 秋には露となって消えると思っていたが、薬が効いて無事に生き延び、燕の帰るのを見送ることができた。
 二十四句目。

   此度の薬はききし秋の露
 杉の木末に月かたぐ也      利牛

 今夜が峠だと思っていたが、無事に薬が効いて、月の傾くのを見る。

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