それではTwitterで呟いたなりきり奥の細道の続き。
四月四日
今日は旧暦4月3日で、元禄2年は4月4日。
浄法寺図書の屋敷は黒羽城の門を入ってすぐのところにあった。庭がなかなか綺麗に整えられている。
午前中は昨日の三人に加えて翅輪と執筆の二寸で五人になった。浄法寺図書は参加せず、見てるだけでいいようだ。
芭蕉「昨日は曾良の、秋草ゑがく帷子はたそ」で終わったっけ。思わせぶりな終わり方だしその人物に行かなくてはいけないね。初裏だし恋呼び出しだな。
秋草ゑがく帷子はたそ
ものいへば扇子に顔をかくされて 芭蕉
翅輪「いきなり恋で来たか。なら川向こうから乗り合い船で通ってくる遊女と洒落てみようか。」
ものいへば扇子に顔をかくされて
寝みだす髪のつらき乗合 翅輪
曾良「それではここで女から男へ、落差のある展開といきましょう。むさ苦しい牢人なんかで、居場所を求めて田舎を彷徨い歩いてるって感じですな。」
寝みだす髪のつらき乗合
尋ルに火を焼付る家もなし 曾良
民部「ではこの辺りに盗賊が出るというのでどこの家も戸を固く閉ざしている、って展開で、芭蕉さんも通ってきた日光北街道のとどろくの里としよう。有名な義賊のいた土地だ。」
尋ルに火を焼付る家もなし
盗人こはき廿六の里 翠桃
芭蕉「とどろくの里は通らなかったな。船に乗せられたからな。盗人が怖いのは商人だとか金や物を持ってる人で、笈を背負った巡礼者など盗られるものもない。取るのは年だけ。」
盗人こはき廿六の里
松の根に笈をならべて年とらん 芭蕉
民部「年とらんだからもうすぐ正月か。笈を背負った旅人は昔の連歌師にしようか。この辺りは宗祇法師や兼載法師も来た所だし。」
松の根に笈をならべて年とらん
雪かきわけて連歌始る 翠桃
今日は旧暦4月3日で、元禄2年は4月4日。
浄法寺図書の屋敷での興行は続く。
翅輪「連歌には名所の句が付き物だが、京の大原は小野の里の雪の中で連歌をやれば炭俵がたくさんあって暖を取れる。」
雪かきわけて連歌始る
名所のおかしき小野の炭俵 翅輪
曾良「小野の里は比叡山の麓で尼さんも住んでいますね。大原女は炭を売りに行き、同居する尼さんが留守番で大原女のために砧を打ってるってのはどうでしょう。向かえ付けで。」
名所おかしき小野の炭俵
砧うたるる尼達の家 曾良
民部「女二人で仲良いのも悪くない。行平どのみたいに間に挟まれたいもんだな。でもここは普通に李白の子夜呉歌の趣向を借りて、出征した男がついに戻らず尼になった妻達にしようか。」
砧うたるる尼達の家
あの月も恋ゆへにこそ悲しけれ 翠桃
芭蕉「これはやられたな。ここは心情を付けて流しておくか。」
あの月も恋ゆへにこそ悲しけれ
露とも消えね胸のいたきに 芭蕉
曾良「辛い恋ですね。花の定座で秋からの移りだと花をライバルの女の比喩としましょうか。それもすぐれてときめきたまう女、桐壺更衣のような。」
露とも消えね胸のいたきに
錦繡に時めく花の憎かりし 曾良
民部「錦繍を男にして、花から花へというパターンにできるな。今を時めく蝶は花のところに飛んで行くんだが、車に乗れるわけでもなく自分の羽で飛んでゆく。身分違いの恋。」
錦繍に時めく花の憎かりし
をのが羽に乗る蝶の小車 翠桃
今日は旧暦4月3日で、元禄2年は4月4日。
浄法寺図書の屋敷での興行は続く。
翅輪「恋が続いたから、ここは普通に蝶が飛んでるだけにして、庭で子供と遊ぶ情景にしようか。今流行りの小児日傘とか。」
をのが羽に乗る蝶の小車
日がささす子ども誘て春の庭 翅輪
伝之丞「やあ、遅くなって、問屋本陣の伝之丞と申す者でお見知りおきを。子供ってのは着飾っても長く持たずに、すぐに脱いで庭に飛び出して行って、自由なもんです。」
日がささす子ども誘て春の庭
ころもを捨てかろき世の中 桃里
芭蕉「衣を捨ててといえば伊勢で裸に目覚めた増賀上人。まあ、こういう奇行をするくらいだから、大酒飲みの破戒坊主だったのかな。酔うとすぐに脱ぐやつ、竹林の七賢にもいたっけ。」
ころもを捨てかろき世の中
酒呑ば谷の朽木も仏也 芭蕉
曾良「狩人の発心ですな。獲物も取れずに坊主で帰って、酔っ払ったら谷の朽木が仏様に見えて、本当に坊主になる。」
酒呑ば谷の朽木も仏也
狩人かへる岨の松明 曾良
民部「松明だったら武将でもいいな。狩人が山道を帰ってゆくと落武者が松明を灯して野宿している。」
狩人かへる岨の松明
落武者の明日の道問草枕 翠桃
翅輪「明日の道問うのはこれから先どうやって生きてゆけばいいのか途方に暮れているということで、神社を見つけたんで占ってみる、というのはどうかな。」
落武者の明日の道問草枕
森の透間に千木の片そぎ 翅輪
今日は旧暦4月3日で、元禄2年は4月4日。
浄法寺図書の屋敷での興行は続く。
伝之丞「神祇と来たら釈教か。本地垂迹。」
森の透間に千木の片そぎ
日中の鐘つく比に成にけり 桃里
曾良「お寺といえば今は隠元禅師の唐茶でしょう。煮出すだけで手軽に飲めるお茶は大人気で、昼の鐘を撞く頃にはもうなくなってる。」
日中の鐘つく比に成にけり
一釜の茶もかすり終ぬ 曾良
翅輪「お茶がなくなるといえば、それだけ話し込んでしまったということか。世間話が長くなってしまったけど、相手はそういえば托鉢に来た乞食坊主だった。」
一釜の茶もかすり終ぬ
乞食ともしらで憂世の物語 翅輪
民部「お地蔵さんを祀った洞穴にいたから、てっきり厳しい修行に耐えている仏頂和尚のような高僧かと思って悩みを聞いてもらっていたら、夜が明けてよくよく見るとただの乞食坊主だった。」
乞食ともしらで憂世の物語
洞の地蔵にこもる有明 翠桃
芭蕉「そろそろ終わりに近いし、ここは景色で逃げておこうかな。地蔵の洞といえば蔦に埋もれてたりして、それが冬も近いと真っ赤に紅葉して、ただ時雨に染まるのは普通だから、猿の涙にしよう。」
洞の地蔵にこもる有明
蔦の葉は猿の泪や染つらん 芭蕉
伝之丞「なんかすごい悲しそうだな。どう応じたものか。やはり流人かな。」
蔦の葉は猿の泪や染つらん
流人柴刈秋風の音 桃里
今日は旧暦4月3日で、元禄2年は4月4日。
浄法寺図書の屋敷での興行は続く。
芭蕉「どうした、みんな考えこんじゃって。流人で悲しくない方に展開するのは確かに難しいか。朝日を拝んで何とか希望を持とうというのはどうかい。」
流人柴刈秋風の音
今日も又朝日を拝む石の上 芭蕉
二寸「あのお、なかなか句が付かないんで執筆の方から失礼しますが、修験者の朝で滝に米を研ぎにくるってのはどうですか?」
今日も又朝日を拝む石の上
米とぎ散す瀧の白波 二寸
曾良「これなら米の研ぎ汁をこぼすのを滝に喩えたとも取れますね。ならこちらも比喩で返しましょう。竹竿の先の旗が雲のようで、米の研ぎ汁が滝のよう。」
米とぎ散らす瀧の白波
旗の手の雲かと見えて翻り 曾良
翅輪「雲のような旗と言ったら源氏の白旗。みちのくに逃れてそこで和歌でも書き残してゆく。」
旗の手の雲かと見えて翻り
奥の風雅をものに書つく 翅輪
芭蕉「さあ、最後の花の定座は浄法寺さん。ここは一つよろしく。」
図書「いやあ、困ったなあ。何も思いつかなくて。今の状況そのまんまでもいいかい?」
奥の風雅をものに書つく
珍しき行脚を花に留置て 秋鴉
伝之丞「では二寸に代わって最後簡単に。春にしなくちゃいけないから日付が5日ほどずれるけど。」
珍しき行脚を花に留置て
弥生暮ける春の晦日 桃里
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