それでは切字の続き。
第四型
時鳥暁傘を買せけり 其角
の句は構造としては、
時鳥(主語)は暁に傘を買わせ(述語)けり(切れ字)
で時鳥が擬人化されている。
季題が五文字の場合は述語を考えて断定すればいいだけだから、初心者でも作りやすい形なのかもしれない。
もちろん「けり」の強い断定に囚われる必要はなく、末尾の切字は「かな」「けり」「べし」「ぬ」形容詞の「し」などに変えても構わない。
元が上五の格助詞の省略された形なので、季語が四文字であれば普通にそこに格助詞を補えばいい。
下五をより強調したい場合には、下五を倒置にして上五に持ってくることもできる。
第五型
かきつばた畳へ水はこぼれても 其角
の句は構造としては、
かきつばた(主語)は畳へ水がこぼれても‥‥(述語・切れ字の省略)
の形になる。変則的な形なので、表面的には切れ字のない形になる。
この句の場合は「こぼれても」のあとの文章の省略とも取れるが、たとえば「いいもんだ」というのを補った場合、
杜若は畳へ水はこぼれてもいいもんだ
になるが、これは、
畳へ水はこぼれても杜若はいいもんだ
の形にして杜若を前に持ってきたというふうに考えることもできる。つまり大廻しの一種と考えて良い。基本的には倒置した上での切字の省略で、切字だけでなくその上の述語まで省略することもありうると考えればいい。
鰯雲人に告ぐべきことならず 楸邨
の句は「いわしぐも」の「いわし」を「言わじ」に掛けて「告ぐべきことならず」を導き出す体で、
鰯雲なれば人に告ぐべきことならず
の「なれば」の省略になる。この句の場合は「ず」が終止言で切字の役割を果たしているし、倒置もないので大廻しではない。
帰花それにもしかん莚切レ 其角
この場合も、
帰花なれば、それにも莚切れを敷かん
であり、「敷かん」という撥ねの言葉が切字になっている。倒置はあるが大廻しではない。
蟇誰かものいへ声かぎり 楸邨
これも「なれば」の省略。
ヒキガエルなれば声限り誰か物言え
の倒置で、「いへ」という命令形が終止言になり切字になる。大廻しではない。
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