それでは切字の続き。
10,五つの型との関係
第一型
名月や畳みのうへに松の影 其角
の句は構造としては、
明月の夜には畳の上に松の影(主語)が生じる(述語)や(切れ字)
の述語が省略した形となる。
第一型は、
1,頭から順番に言い下す文章に、本来末尾に来る治定の「や」だけが倒置になって、上五の下に持ってくる場合。
2.下五全体を倒置にして上五に持ってくる場合。
3.上五を「や」で一旦切ってから、下五に別の文章を続ける場合
の三つがある。
1の場合は「や」を他の格助詞(「は」「に」「を」など)に置き換えても意味が通じる。
名月や畳みのうへに松の影 其角
(名月は畳のうへに松の影を落とすや)
2は上五を下五に持っていくと意味が通る。
明行や二十七夜も三日の月 芭蕉
(二十七夜も三日の月に明行や)
3は「や」を他の格助詞に置き換えることもできず、かといって倒置で下五を末尾に持って行ってもつながらない。
菜の花や月は東に日は西に 蕪村
第二型
越後屋に衣さく音や更衣 其角
の句は構造としては、「衣更えで越後屋に衣さく音(の響く)や」の倒置になる。
「や」に限らず中七が終止言で切れる場合は、ほとんどの場合が下五を頭に持って来れば意味が通じることが多い。
そのため、この第二型は「や」を「けり」「なり」「たり」「し」などに変えることができる。
葛の葉の面見せけり今朝の霜 芭蕉
(今朝の霜に葛の葉の面見せけり)
撞鐘もひびくやうなり蝉の声 芭蕉
(蝉の声に撞く鐘もひびくようなり)
誰やらが形に似たりけさの春 芭蕉
(今朝の春は誰やらが形に似たり)
五月雨をあつめて早し最上川 芭蕉
(最上川は五月雨を集めて早し)
ただ、この倒置は必ずしも上五に来ない場合もある。
柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺 子規
の場合は「柿食えば法隆寺の鐘が鳴るなり」の倒置になる。
第三型
かまきりの尋常に死ぬ枯野かな 其角
の句は構造としては、
枯野でかまきりは(主語)尋常に死ぬ(述語)かな(切れ字)
の倒置された形となる。この場合はゼロ型と言っても良い。
「かな」は末尾に来ることがほとんどであるため、ゼロ型と変わらないが、主語や述語が省略される場合もある。
春たちてまだ九日の野山かな 芭蕉
は「野山は春立てまだ九日(なる)かな」で述語が省略されている。
なにの木の花ともしらずにほひかな 芭蕉
は匂いを放つ主語(おそらく伊勢神宮を指す)が省略されている。
0 件のコメント:
コメントを投稿