それではX奥の細道の続き。
七月七日
今日は旧暦7月6日で、元禄2年は7月7日。直江津。
今日も朝から雨。村上から歩きっぱなしだし、ゆっくり休みたい。
曾良もまた昨日の宿のトラブルで疲れ切ってる。
聴信寺から何度も使いが来て招待されて、ずっと断ってたが、結局午後には行ってきた。
夜は右雪の家で昨日約束した興行を行う。
石塚喜衛門「俳号は左栗だすけ、よろしく。では、発句は昨日出てたので、脇から。六日は常の夜には似ずというのは芭蕉さんがいらしたからで、我々落ちかけてた桐の葉にも露の輝く。」
文月や六日も常の夜には似ず
露をのせたる桐の一葉 左栗
曾良「では露の光ということで、朝の情景に転じましょう。仁徳天皇の民の煙の賑わいを喜ぶということで。」
露をのせたる桐の一葉
朝霧に食焼烟立分て 曾良
眠鴎「煙が立つと言えば海人の藻塩だすけ、磯の情景ということで。」
朝霧に食う焼烟立分て
蜑の小舟をはせ上る磯 眠鴎
石塚善四郎「俳号は此竹。海人の小舟といえば、昔の須磨明石の流刑人。帰る所もない。ねぐらのないカラスのような。」
蜑の小舟をはせ上る磯
烏啼むかふに山を見ざりけり 此竹
石塚源助「俳号は布嚢。山がないから見渡す限り湿地帯の越後の国。海辺の松並木の木の間の道を大名行列が行く。」
烏啼むかふに山を見ざりけり
松の木間より続く供やり 布嚢
右雪「ではその大名行列を庭から見てるということで。」
松の木間より続く供やり
夕嵐庭吹払ふ石の塵 右雪
執筆(しゅひつ)「夕暮れの庭では庭師が仕事を終え、削った石の屑を払うために行水をする。」
夕嵐庭吹払ふ石の塵
たらい取巻賤が行水 執筆
左栗「行水の水を引いてる筧に鳥が水を飲みに来る。」
たらい取巻賤が行水
思ひかけぬ筧をつたふ鳥一ツ 左栗
曾良「思いすらかけてくれない、と取り成して、つれなくもさっさと帰って行った男を起き上がることもなく見送る女としましょうか。行ってしまった後には鳥がいるだけ。」
思ひかけぬ筧をつたふ鳥一ツ
きぬぎぬの場に起もなをらず 曾良
義年「何だみんな恋の句は駄目かい?なら飛び入りで。前句をもう二度と会うこともない別れとして、ようやく起き上がると残された恨みの品を捨ててしまおうと並べ始める。」
きぬぎぬの場に起もなをらず
数々に恨の品の指つぎて 曾良
芭蕉「実際あなたが私にくれたものってこうやって見てみると、笑うっきゃないねって、貰った鏡を見ながら思う。」
数々に恨の品の指つぎて
鏡に移す我がわらひがほ 芭蕉
左栗「恋を離れるといっても何も思い浮かばない。この辺りで月を出してくれというし、やはり朝の月しかないかな。」
鏡に移す我がわらひがほ
あけはなれあさ気は月の色薄く 左栗
右雪「うちの犬は鹿を追っ払ってくれるどころか、何故か子鹿を連れてきてしまったよ。何考えてるんだ。」
あけはなれあさ気は月の色薄く
鹿引て来る犬のにくさよ 右雪
眠鴎「犬は鹿を連れて来るというのに、隠棲してるこの坊主には砧を打ってくれる人はいない。」
鹿引て来る犬のにくさよ
きぬたうつすべさへ知らぬ墨衣 眠鴎
左栗「砧を自分で打ったことのないような元高貴な尼さんにしようかな。嵯峨野の祇王と祇女の姉妹がいいかな。」
きぬたうつすべさへ知らぬ墨衣
たつた二人の山本の庵 左栗
義年「さっきの句が良かったからって、いきなり花を持てだ何て光栄な。二人の山暮らしだから寒山拾得なんてどうだ。舞い散る花に拍手しながら夕暮れになったら星を数える。」
たつた二人の山本の庵
華の吟其まま暮て星かぞふ 義年
右雪「なら邯鄲の夢から覚めたみたいに、花見で浮かれてて気づくと夜で蝋燭が揺れてる。」
華の吟其まま暮て星かぞふ
蝶の羽おしむ蝋燭の影 右雪
芭蕉「すまんが自分も曾良も疲れてて、ここで一句づつ付けるから後は何とかみんなで満尾しておいてくれ。前句は和尚さんの遷化で、弔いに稚児も剃髪する。」
蝶の羽おしむ蝋燭の影
春雨は剃髪児の泪にて 芭蕉
曾良「稚児といえば恋ですね。いろんな人と付き合って、相手によって違う香を焚いた手紙が届くが、中には悲しい手紙もありまして。」
春雨は剃髪児の泪にて
香は色々に人々の文 曾良
七月八日
今日は旧暦7月7日で、元禄2年は7月8日。直江津。
朝は雨が止んだので高田の池田六左衛門の所に行こうかと思ったが、喜衛門に呼ばれて昼食をご馳走になった。
昼飯を終えて少し休んでから高田へ出発した。一里かそこらしかないのですぐ着くと思う。
別れ際に、
星今宵師に駒引いて留たし 右雪
曾良「私もせめて早稲の新米の取れる頃まで留まりたかったところです。」
星今宵師に駒引いて留たし
色香ばしき初刈の米 曾良
芭蕉「(早稲って香ばしいかな。あれ臭いよね。まあ、それは言えない。)早稲の取れる頃にはお盆かな。漬け込んで天日で干した晒し木綿を搗いて糊付けする頃。」
色香ばしき初刈の米
さらし水踊に急ぐ布つきて 芭蕉
そうそう忘れるところだったが、右雪だけでなく、
行月をとどめかねたる兎哉 此竹
七夕や又も往還の水方深く 左栗
の餞別句も貰った。
高田に着くと細川春庵とかいう者の使いが来た。
知らない人なので、先に予定してた池田六左衛門のところに行くと、お客さんが来てるというので、近くの高安寺の観音堂で一休みしてたら、今度は使いの者が春庵からの手紙を持ってきた。
薬草園があるというので、何となく知らない花があるんじゃないかと思って行ってみることにした。
薬欄のいづれの花をくさ枕 芭蕉
春庵は棟雪という俳号で、着くと早速四句目まで興行した。
棟雪「薬草園の中で野宿ですか?萩の簾に月が見えてそれは素敵なことでしょう。でもちゃんと部屋で寝てってくださいね。」
薬欄にいづれの花をくさ枕
萩のすだれをあげかける月 棟雪
鈴木与兵衛「俳号は更也です。萩の簾を、萩の枝を乾燥させたもので作った簾にして、部屋ではなく工房ということにしましょうか。」
萩のすだれをあげかける月
炉けぶりの夕を秋のいぶせくて 更也
曾良「炉の煙でけぶたいので、それを避けて藪の方を馬で通り過ぎるということにしましょう。」
炉けぶりの夕を秋のいぶせくて
馬乗ぬけし高藪の下 曾良
このあと六左衛門の息子の甚左衛門が呼びにきたので、一応六左衛門と会ってから春庵の家に泊まることにした。
七月九日
今日は旧暦7月8日で、元禄2年は7月9日。高田。
今日は朝から時折小雨が降る天気で、ゆっくり休めそうだ。
昨日四句で終わった俳諧の続きだが、曾良疲れて寝てるので、そっとしといてやろう。
何とか歌仙一巻満尾した。
いつもは曾良が書き留めておいてくれるけど、今日はなしで。
七月十日
今日は旧暦7月9日で、元禄2年は7月10日。高田。
昨日から時々小雨が降るような天気が続いてる。
今日は中桐甚四郎という人に招かれてこれから興行をする。曾良は今日もお休み。
中桐甚四郎の家での興行も終わり、夜には春庵の所に戻った。雨も上がって晴れた。
明日はここを出て、また海岸の道になるのかな。
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