2023年9月7日木曜日

 それではX奥の細道の続き。

七月十六日

今日は旧暦7月15日で、元禄2年は7月16日。金沢。

今日も良い天気で、朝はゆっくり休んだ。
竹雀が籠屋屋を連れて迎えにきてくれて、宮竹屋喜左衛門の家に移った。

七月十七日

今日は旧暦7月16日で、元禄2年は7月17日。金沢。

昨日の午後から、金沢で俳諧をやってるという人が二、三訪ねて来た。まあ、深川にいる時はいつもそうだし、旅でも長く滞在してると必ず人がやってくる。
源意庵から誘いがあって今日は出かけることにするが、曾良がまた具合が悪くなって心配だ。

源意庵は川の近くでここで夕涼みをした。俳諧興行ではなく、みんなで発句を詠んだ。
この前から何度となく海に傾く夕日を見たけど、それに耳で聞く秋風と取り合わせて、

あかあかと日はつれなくも秋の風 芭蕉

我ながらよくできたと思った。

曾良から預かった句もあって、

人々の涼みに残る暑さかな 曾良

病気で暑い部屋に取り残されたからな。
その他、宿の主人の、

入相や盆の過ぎたる鐘の音 小春

源四郎の、

橋見れば少し残暑の支へたり 北枝

の句もあった。
あとは、

白鷺やねぐら曇らす秋の照り 此道
川音やすごきに退かぬ残暑哉 雲口
雲立ちの今日も変らぬ残暑哉 一水

の句もあったかな。

七月十八日

今日は旧暦7月17日で、元禄2年は7月18日。金沢。

昨日は源意庵から帰ったあと、夜中に強い雨が降ったが、明け方には止んで、今は快晴だ。
曾良の調子も良くならないし、今日は一日ゆっくり休みたい。

昨日の「あかあかと」の句。曾良によると、秋風は春に生じた生命の秋に止むの、その目に見えない暗示だそうで、それに太陽がつれなくも沈んでゆくのと響き会うとのこと。

七月十九日

今日は旧暦7月18日で、元禄2年は7月19日。金沢。

今朝も晴れた。曾良の調子もだいぶ良くなってきたという。明日の興行は大丈夫かな。
今日もゆっくり休もう。

昼も過ぎた頃だったか、去年の夏、大津にいた時に入門してきた乙州と再会した。明日の興行に参加するという。大阪商人の何処も一緒だった。
一昨日招かれた源意庵の源四郎も来た。牧童の弟で北枝とかいったか。

七月二十日

今日は旧暦7月19日で、元禄2年は7月20日。金沢。

午後から一泉の家で興行した。
芭蕉「ではお盆も終わったことで、お供えしてた瓜や茄子のお下がりを頂いたので、みんなで食べましょう。茄子は生では何だから、それぞれ料理してね。」

残暑暫手毎にれうれ瓜茄子 芭蕉

一泉「暑いけど日は短くなって暮れるのも早くなったが、今日はまだ日の高いうちで、暑いと思いますが。」

  残暑暫手毎にれうれ瓜茄子
みじかさまたで秋の日の影 一泉

左任「では旅体に転じようか。日が出たからすぐに月に行かなくてはね。短い日が沈んで月と入れ替わるように、野の末で馬も乗り換える。」

  みじかさまたで秋の日の影
月よりも行野の末に馬次て 左任

丿松「弟が参加できなくて残念だけで、頑張ります。月よりも、月ではなく高い生垣ばかり目について、月がよく見えない。」

  月よりも行野の末に馬次て
透間きびしき村の生垣 丿松

竹意「弟さんは本当に残念でした。でもまあここは湿っぽくならずに。生垣の家が並ぶと言えば三条に釘を作流ために集まった鍬鍛治屋さん。そこらじゅうで槌の音を響かせている。」

  透間きびしき村の生垣
鍬鍛治の門をならべて槌の音 竹意

語子「鍛冶屋といえば水が必要。」

  鍬鍛治の門をならべて槌の音
小桶の清水むすぶ明くれ 語子

雲口「毎日朝夕水を汲みに行く人は、七つの頃から育ててもらった老女に恩を返す意味で、毎日介護をしている。」

  小桶の清水むすぶ明くれ
七より生長しも姨のおん 雲口

乙州「その老女は既に亡くなっていて、追善に放生会をする。加賀にも放生津八幡があるしね。でも場所はそれっぽい架空の場所ということで、西方浄土の西に掛けて、西の栗原。」

  七より生長しも姨のおん
とり放やるにしの栗原 乙州

如柳「放たれた鳥が西の栗原に遊んでるのを見ると、昔読み習った西行法師の、

心なき身にもあはれは知られけり
   鴫立つ沢の秋の夕暮れ

の歌を思い出す。」

  とり放やるにしの栗原
読習ふ歌に道ある心地して 如柳

北枝「歌の心といえば月花だから、この辺で月を出そうか。油がなくなって行灯の火が消えたと思ったら、いいタイミングで雲間から月が出た。心ある月だ。」

  読習ふ歌に道ある心地して
ともし消れば雲に出る月 北枝

曾良「渡し守の朝にしましょう。明るくなって灯しを消すと、雲の切れ目から有明の月が見えて、今日はいい天気になりそうだ。でも明け方は冷えるので、咳をする。」

  ともし消れば雲に出る月
肌寒咳きしたる渡し守 曾良

流志「渡し場の景を添えておこう。肌寒い頃には干し残した稲が近くにあったりする。」

  肌寒咳きしたる渡し守
をのが立木にほし残る稲 流志

一泉「稲が干したまま取り残されてるなんて、夫婦喧嘩でもしたかな。元から不本意な縁組をされたとか。」

  をのが立木にほし残る稲
ふたつ屋はわりなき中と縁組て 一泉

芭蕉「わりなきという言葉は良い意味に転用して使われることもあるからな。逆に評判の思いっきり仲の良い夫婦ということにして。」

  ふたつ屋はわりなき中と縁組て
さざめ聞ゆる国の境目 芭蕉

北枝「国の境目というと、そこを越えて駆け落ちする恋人同士というところかな。変装のための衣を縫う。」

  さざめ聞ゆる国の境目
糸かりて寝間に我ぬふ恋ごろも 北枝

雲口「ここは筒井筒の健気な幼馴染みとしようか。夫の旅の無事を祈り、

風吹けば沖津白波たつた山
  夜半には君が一人越ゆらむ

の心で。」

  糸かりて寝間に我ぬふ恋ごろも
あしたふむべき遠山の雲 雲口

浪生「明日踏む遠山の雲は吉野の花の雲ですな。草庵に住む人が正月に飾る野老(ところ)にその花を思う。」
芭蕉「思い出すな、万菊丸と吉野へ行った時を。採用。」

  あしたふむべき遠山の雲
草の戸の花にもうつす野老にて 浪生

曾良「野老とか自然のものだけで生活していて、みう何年も畑を耕してい隠者なんでしょうね。まあ、仙人出ないなら、徳があって米をくれる人がいるんでしょうな。」

  草の戸の花にもうつす野老にて
はたうつ事も知らで幾はる 曾良

興行が半歌仙で終わったあと、野畑という所へ行った。前田家の墓所のある所で、小高い山になる。ここでまた、つれなく沈んでゆく夕日を見た。帰ってから夜食に瓜茄子を食べた。
明後日は一笑の追善会をやる。

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