これは元禄七年秋の其角らの江戸から大阪への旅の句を並べたものとしては、同じ其角編の元禄7年の『句兄弟』に収録された「隨縁記行」と重複するものだが、「甲戌紀行」の方は其角の句のみを記し、簡略化されている。始まりも箱根からになっている。
「隨縁記行」の方はこの俳話でも2022年11月29日から12月15日まで取り上げている。
「隨縁紀行」には甲戌仲秋(元禄7年8月)の名月の句から始まっている。
木母寺に歌の会ありけふの月 晋子
木母寺は今も墨田区にある天台宗の寺院で、東白髭公園の中にある。ウィキペディアによると、
「この寺の寺伝によれば、976年(貞元元年)忠円という僧が、この地で没した梅若丸を弔って塚(梅若塚:現在の墨田区堤通2-6)をつくり、その傍らに建てられた墨田院梅若寺に始まると伝えられる。」
という。場所的にもちょうど古代東海道がこの辺りを通っていた。
そして9月6日に其角は岩翁・亀翁・岩翁・尺草・横几とともに6人で上方方面へと旅立つ。
首途の句、六郷の渡りの句に其角の句はない。其角の最初の句は箱根峠で始まるということで、ここから「甲戌紀行」は始まる。
箱根峠にて
杉の上に馬ぞみえ来る村櫨 晋子
の句は、ここでは、
箱根峠
杉の上に馬ぞ見え來るむら栬 其角
となる。櫨も栬も「もみぢ」と読む。
2022年11月29日の時は、
「山は紅葉しているが、街道の関所の辺りの平地は杉並木なので、杉並木を出て山を登って行く馬が紅葉の中を行くのが見える。」
としたが、箱根峠を登ってゆくうちに下界の杉並木から馬が登ってくる様子としてみてもいい。
そのあとに、
「秋の空尾上の杉をはなれたりといふ吟ここにもかなふべし。」
とある。
秋の空尾上の杉にはなれたり 其角(炭俵)
の句を指す。

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